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コロナ禍「副業でこっそり稼ぐ人」の快活な生計

「本業のスキマ時間をブログアフィリエイトにつぎ込んで、ざっと月収40万円は稼げました」

ITコンサル会社で働く福田さん(仮名)は、コロナ禍で在宅勤務になったことを機に副業を始めました。自分でもびっくりするくらいの副収入を手にし、その表情には満面の笑みが漂っていました。

福田さんくらいに稼ぐのはレアケースだとしても、新型コロナウイルスにより、サラリーマンの副業熱は明らかに高まっています。在宅勤務で時間に余裕が生まれたこともありますが、勤務先の休業などによる収入減を補いたいという経済的背景も見逃せません。

リモートワークのスキマ時間に

転職SNSを運営するYOUTRUST(本社:東京都品川区)が実施した「新型コロナウイルスの影響下における働き方の実態・意識調査」では、リモートワークの影響によって「副業の仕事がやりやすくなった(43.6%)」「今後増えていくと思う(54.8%)」「副業意欲が高まった(43.3%)」と回答。データからも大副業時代の機運がうかがえます。

突然リモートで働くことになった“にわかテレワーカー”は、最初でこそリモートでの仕事に戸惑っていましたが、徐々に慣れてくると、ある程度自由に時間を使えるメリットに気がつきました。「仕事をする場所」(=かつての職場)と「休む場所」(=かつての自宅)の区別が曖昧になり、「スキマ時間」で何かをしたいという思いが高まってきたのです。

こうした可処分時間の増加といえば、その最たるものが通勤時間です。「通勤に使っていた時間がまるまる空いている。この時間をムダにしたくない」という衝動に駆られ、副業を始めたという声を多く聞きます。

副業したい人と企業をつなげるサービス「シューマツワーカー」(東京都渋谷区)が2019年12月にリリースした「副業系サービスカオスマップ」によると、掲載された副業は26ジャンル151サービス。初めてリリースした2017年の12ジャンル27サービスと比較すると、その急増ぶりが一目瞭然です。

カオスマップを眺めてみると、副業に属するジャンルの幅広さに改めて驚かされます。確かに、副業とは、本業を持つ人が手段を問わず本業とは別の副収入を得ることを指しますから、メルカリで稼ぐにしても家事代行で稼ぐにしても、副業になりえます。

冒頭で紹介した福田さんはアフィリエイトで稼いでいると言っていました。アフェリエイトとは、自分のWEBサイト(ブログ)などを通して読み手が商品を買うことで、広告主から成果報酬がもらえるという仕組みです。広告から収入を得るという点ではユーチューバーも同じ部類に属するといってもいいでしょう。魅力あるコンテンツを作ってチャンネル登録者を増やし、そこから広告収入を得ています。こうした稼ぎ方は副業としてかなりメジャーなジャンルではありますが、WEB上で人をひきつける魅力が必要となります。

もっともポピュラーなジャンルといえば、やはり「クラウドソーシング」でしょう。記事の執筆・ブログ記事のリライト(書き直し作業)・単純なデータ入力作業・テープ起こし・アンケートモニターなどなど、空いた時間にパパっと作業できるものが数多く募集されています。コロナ禍に端を発したリモートワーク中の副業としては、本業の仕事の合間にできたスキマ時間を使ってできるものを選ぶことが前提となるので、こうしたマイクロタスクといった部類の仕事は極めて相性がよいと思われます。

自分の時間を切り売りする

もっと簡単に自分の時間をお金に変えようという流れもあります。

その代表格がウーバーイーツでしょう。体力がないと話になりませんが、それ以外に何か特別なスキルは必要なく、ほかの領域に比べてハードルが低い副業といえます。気軽に登録ができて、髪型や服装も自由。1時間だけでも週末だけでも、働きたいときにアプリをオンラインにすれば、いつでも自分の好きな時間で働くことができます。

資格や履歴書も必要なく面接さえありません。こうしたお手軽感も手伝ってか登録者が劇的に増加。緊急事態宣言下の外出自粛期に宅配需要が拡大する中で、トレードマークのあの四角いバッグが、本来4000円のところ一時期ヤフオクでは2万円で取り引きされるくらいの人気ぶりでした。

「わたしの30分、売りはじめます」。こんなキャッチコピーで自分の時間を切り売りできる副業サービスもあります。タイムチケットというサービスがそれで、まさに30分単位で自分のスキルをチケットにして販売できます。

登録者数はなんと10万人以上。中には「バク転教えます」といったユニークなチケットを売っている人もいますが、多く見られるのが「どんなことでも相談乗ります」「一緒にランチ行きます」「1人で行きづらいイベント行きます」といったチケット。タイムシェア型の副業の一種といえますが、一緒に過ごすことだけでも副業になるとは、ある意味で斬新です。

チャットレディ、レンタルおじさん

「通勤時間を活用してメールしています。お昼休みもメールチェックしたりして。メールで仲良くなった男性とは、 たまに寝る前にビデオチャットするときがありますが、そういう日は通勤時間のメールも合わせて 6,000円超えることもあって」というOL。

「子供が1人いるのですが、だいたい昼の1時から3時ぐらいまでお昼寝するので、 昼寝した日はビデオチャットとボイスチャットでお仕事してます。 最初はそれほど稼げませんでしたが、メールで気が合う人が数人見つかってからは、月5万円くらいになります」というテレワーク中の主婦。

ネット上には、こうした書き込みがずらりとが並んでいます。男性とメールやチャットするだけで稼げる「メールレディ」「チャットレディ」は、やや怪しいもののタイムシェア副業の一種といえるでしょう。

これがオンラインからオフラインになると「レンタル彼女・レンタル彼氏」という名称に変わり、さらに怪しさが増します。「彼氏・彼女として過ごしてほしい」というデート依頼特化型のタイムシェアサービス。ドラマ化されたりもしましたのでご存じの読者もいらっしゃるでしょう。

レンタルの延長には「レンタルおじさん」なるユニークなサービスも存在します。1時間1000円で、相談・付き添い・観光案内・雑用までどんなことでもリクエストを受けるとのこと。「話を聞いてもらって励まされたり癒やされたりしたい」「1人で行く勇気がない。でも男友達には頼めない。一緒にアキバのオタクショップに行ってほしい」など、同年代の男子には頼みにくい案件を依頼したいという女子の需要が一定数あるそうで、タイムシェアサービスの中でも異彩を放っています。

政府が未来投資会議で示した「アフターコロナの社会を見据えた成長戦略の素案」では、働き手に副業での労働時間を本業の勤務先に申告させたうえ、勤務先には通算した労働時間で残業時間の上限規制をするという方向で審議が進んでいます。副業で働く人の労働時間をきちんと管理することで、働き手を守る仕組みを整えることが狙いです。

副業禁止の企業が少なくない中で

しかしこの施策がうまくいくかどうかは疑問です。そもそも日本は、副業を禁止する企業が多く、“副業するならバレずにやらないと……”という風潮が色濃い国です。確定申告や住民税の計算によって副業はバレるにもかかわらず、“どうやったら会社にバレずに済むか”を考える副業派が実に多いのが実態です。

こっそり副業がデフォルトの国にあって、在宅勤務のスキマ時間に稼ぎたい副業派が増えているわけです。コロナ禍の在宅勤務では、ただでさえ“サボってないと思われないか?”という気持ちが生まれがち。本業でさえそんな疑心暗鬼な状況の中で、「自分、副業やってます」と明るく申告する人が、果たしてどれだけいるでしょうか。

コロナ禍で在宅勤務が広がっていく中、通勤しないことで浮いた時間、あるいは仕事合間のスキマ時間といった「可処分時間」をバレずに換金化したい――。こうした「こっそり副業」の流れは、さらに加速していくでしょう。

クラウドソーシングでのデジタル内職系のシゴトにしても、とにかく自分の時間を切り売るにしても、さらには怪しいアングラなサービスにしても、「こっそり副業」の受け皿となりうる副業市場は、その選択肢を増やしながら水面下で急拡大しています。