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時代遅れの「日本型教育」を変える"3つの提言"

学校教育が抱える3つの問題点

筆者は学校教育について研究している者ではないが、大学・大学院で教員を務めている。自分の経験から、今の学校教育に次の3つの問題点を感じている。

1つめは、学校における教育の質が停滞し、塾・予備校の台頭を許している点だ。

子どもを進学校とされる私立中学・高校に入れても、大学受験には塾や予備校に通わせないといけない。何のために入試の難関を突破し、高い授業料を払って進学校に行かせたのか、わからない。なぜ受験に必要な知識を学校で効率よく提供できないのか、という疑問である。

2つめは、学校の教育方法が知識を提供するための一方通行型の授業ばかりで、生徒の興味を刺激するものになっていない点だ。

この結果、生徒の中には学習に興味をなくしてしまう者も多い。生徒がもっと興味を持ち、積極的に参加できるような、双方向型の教育方法に変えていく必要がある。

3つめは、英語教育・IT教育が遅れ、その改善の兆しも見えない点だ。

英語教育は文法と読解が中心で、スピーキング、ヒアリング能力はほとんど育成されない。つまり、受験科目としての英語を習っているだけで、使える英語が身につかない。

ITについては、生徒に1人1台の端末が支給されていない学校が多いので、授業で活用できない。その結果、生徒はインターネットで情報を検索したり、パソコンで文章やプレゼンテーションを作成する機会を与えられないまま卒業する。これでは、ビジネスの世界で必要とされるIT能力が身につかない。

一方通行型授業はオンデマンド配信で十分

1つめの問題点(学校における教育の質の停滞)は、小中学校で行われている知識提供型教育に起因する。この問題に関してヒントになりそうなのが、予備校業界であろう。

同業界では、テレビでおなじみの林修先生に代表される、授業のうまいスター講師を集め、彼らの授業を映像化しオンデマンドで配信。全国の生徒がいつでもどこでも授業の動画を見ることを可能としている。

以前であれば、林先生のようなスター講師は東京や大阪といった大都市だけでリアルの授業を行い、地方に住む生徒は講義を聞く機会がなかった。しかし、映像化したものを配信することで、全国の生徒がスター講師の授業を受けられるようにしたのである。

予備校のような知識を一方通行で授ける授業、つまり生徒・学生がパッシブに知識を学ぶ授業では、オンライン化は極めて有効な手段となる。

小中高校では、文部科学省の選定した限られた数の教科書の中から、各学校が1つを選択して使っている。全国から講義のうまい教員を選んで、数種類の教科書に合わせて映像を作ってしまえば、全国の生徒に日本一うまい講義を届けることが可能となるだろう。

これが実現できれば、一方通行型授業の質の改善は現場の教員の役割ではなくなる。現場の教員は、生徒と接する時間を2つめ(双方向型授業の導入)・3つめ(英語教育・IT教育の改善)の問題に費やすことができる。

まず2つめの問題点については、生徒の授業への積極的な参加を促すような、双方向型授業の導入が望ましい。

教員が生徒に質問を投げかけ、その場で考えさせたり、生徒の理解度を確認しながら、一緒に演習問題を解いたり、生徒にグループワークをさせ、お互いのディスカッションを促したり……。とにかく生徒が学習意欲を失わないような工夫をすることが求められる。

筆者は名古屋商科大学経営大学院(MBA)コースで教員を務めており、授業の中で学生を5〜6人のグループに分けて、グループディスカッションしてもらうことがある。

このような双方向型の授業では、オンラインビデオ会議システムの「ブレイクアウトルーム」という機能を使っている。システム上で参加者を小さなグループに分けられる機能で、これがかなり効果的だ。若干のタイムラグはあるものの、リアルと遜色ないレベルで学生とのディスカッションが行える。

オンラインビデオ会議システムの機能を上手に活用することで、双方向型授業は効果的に実施できる。オンライン授業の導入にあたって、学校では生徒が積極的に参加するための双方向型授業の工夫を図ってもらいたい。

次に3つめの問題点についてであるが、日本の中学・高校での英語教育の問題は「英語をしゃべることができない教員」が教えているところにある、と筆者は考えている。教員も文法・読解を学校で学び、それで教員資格を得ているのだから、仕方のないことだ。

しかし、オンラインでの英語の授業であれば、ネイティブの英語教師がいない学校にも、ネイティブの英語教師によるスピーキングやヒアリングの授業を届けることが可能になる。

ITについては、生徒に1人1台のパソコンを早急に支給することが必須条件となる。財源をどうするかという課題はあるが、それが実現できれば、生徒が自宅でオンデマンドの映像授業を見られるようになる。

加えて、教員が生徒にインターネット検索で調べる課題を出したり、その結果を文章作成ソフトでまとめてレポートを提出させたり、その内容をクラスの人にプレゼンテーションしてもらうなど、生徒の積極的な参加を促す授業を行うことも可能となる。生徒がパソコンに慣れ親しんでくれば、社会に出る前に基本的なパソコンの操作能力を身に着けることができる。

新たに求められる教員の新しい役割

これまでも現場でいろいろな工夫をし、双方向型授業やITを利用した授業に取り組んできた教員もいると思う。だが残念ながら、大多数の教員は知識提供型教科の一方通行型講義だけを行ってきたというのが学校教育の実態だ。

その部分が映像化・オンデマンド化されるとすれば、現場の教員の役割は大きく変わっていく。IT活用による双方向型授業へのシフトが望まれる。そのためには、教員に新たなスキルを身に着けてもらうことが必要になる。

教員の中には、これに対応できない人が出てくる。そして、現場の教員から「全国一律のオンライン教育はわが校の実情に合わない」「双方向型授業は現場への負担が過重なものとなる」と反対する声が出てくることが容易に予想される。

しかし、わが国の未来を担う若者を育てるための学校教育である。こうした抵抗勢力に負けている場合ではない。オンライン化に合わせて、その機能を最大限に生かす、大胆な学校改革が実現されることが大いに期待される。