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20代独身の若者たちが東京に集まり続ける理由

東京の人口が1400万人を突破しました(人口動態統計2019年概数)。日本の総人口は、2008年の1億2808万人を頂点に減少し続けていますが、東京の人口は増え続けています。2008年からの10年間でのエリア別人口増減率を見てみると、東京と首都圏の3県(埼玉・千葉・神奈川)だけがプラスで、他の地域はすべて減少です。東京一極集中でもあり、首都圏集中でもあるのです。

人口の増減には、2つの要素があります。1つは自然増減。これは出生数と死亡数によって算出されます。少子化のニュースなどでたびたび話題になるように、日本は毎年出生数が減り続けています。2019年の合計特殊出生率(概数)(1人の女性が生涯に産む子供の数)は、1.36にまで減りました。生まれてくる子どもの数が少なければ、当然人口は増えません。しかし、実は、出生数の減少以上にこの自然増減に影響を与えているのは死亡者数の増加です。

2007年に初めて死亡者数が出生数を逆転

日本において、年間の死亡者数が出生数をはじめて逆転したのは2007年です。それまで、人口動態統計で確認できるだけでも、少なくとも1899年から一度も死亡者数が出生数を上回ったことはありませんでした。それは、正確な統計がない1943~1945年の戦争中においても同様だと言われています。つまり、2007年以降の日本は、戦争もしていないのに、出生数より死亡者数の多い「多死国家」へとなったのです。

この「多死化」は人口メカニズム上必然の流れです。高齢化社会になれば、その次に到来するのは、彼ら増大した高齢者群が一気に寿命を終える時代です。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)によれば、まもなく2024年から毎年150万人以上の死亡者が、約50年間続くと推計されています。150万人のうち9割が75歳以上の高齢者です。これは日本に限らず、アフリカを除く全世界にやがて訪れます。世界中がこの「少産多死」状態となり、それにより世界の人口も減少していきます。人口が増えている東京においても例外ではなく、この自然減は変わりません。

では、自然減であるにもかかわらず、なぜ東京の人口が増えているのでしょう? それは、人口増減に影響するもう1つの要因である人口移動によります。東京含む首都圏だけが人口増になっているということは、それ以外の地域から人々が転入してきているからです。

各都道府県別に年齢別の転入超過一覧を見ると衝撃的です。全国で転入超過の都道府県は、東京・埼玉・千葉・神奈川の1都3県以外には、愛知・大阪・福岡のみ。たった7都府県しか転入超過になっていないのです。その中で、東京だけが群を抜いて高いのがおわかりいただけると思います。

しかも、年代の偏りにも注目したいと思います。東京の転入超過総数の93%が20代で占められています。東京ですら、35歳以上は、転出超過です。東京の転入増実現は、こうした20代のほぼ未婚の若者たちによるものです。

東京は高収入を得られる可能性が高い

若者が移動する最大の理由は仕事です。東京に集中するのは、その他のエリアと比べて就職先の絶対量が大きいことと高収入を得られる可能性が高いからです。「金がないから結婚できない」と嘆く人の大誤解という記事に、都道府県別アラサー男性の平均年収のランキングを掲載していますが、未既婚かかわらず東京の年収がトップで、最下位の沖縄と比べると1.7倍以上の開きがあります。全国平均より20%以上も高い年収を誇るのは、全国で唯一東京だけです。

未婚の若者が職を求めて東京に集中すれば、副次的な効果も生まれます。それが、結婚数の増加です。実は、結婚も東京に集中しています。確かに、東京は50歳時未婚率が高い(男性3位、女性1位)ので勘違いしている人が多いですが、それはあくまで45~54歳の中年男女の未婚比率が高いということであり、平均初婚年齢の30歳前後の東京の未婚率は、全国平均とあまり変わりません。何より、東京の人口千対の婚姻率は全国一高いことをご存じでしょうか。しかも 2000年にトップに君臨して以来ずっと1位をキープしています。2018年実績では、人口千対婚姻率6.0以上なのは唯一東京だけになりました。

婚姻が多いということは、それだけ出生数も多くなります。いや、しかし、東京の合計特殊出生率は全国最下位ではないか?というご指摘もあるでしょう。確かにその通りです。2018年実績で言えば、全国平均1.42に対して、東京のそれは1.20であり、1970年代からずっと連続で最下位です。

しかし、この合計特殊出生率の分母は、15~49歳の未婚の女性も含みます。前述した通り、東京は、全国各地から未婚若年層をたくさん集積するエリアです。東京の合計特殊出生率が低くなってしまうのは、この若年女性の転入が多いことによります。その証拠に、人口千対の出生率は8.0(2018年)で全国7位と上位に位置します。合計特殊出生率の数字だけを見て、東京の出生が少ないとは言えないのです。

それどころか、今後も未婚若年層の東京集中は続きますから、率ではなく、絶対数で考えれば、人口だけではなく、結婚数や出生数も東京に集中することになります。それは、婚姻や離婚、出生の数の東京の占有率と人口の占有率との推移を比べたグラフを見ると明らかです。

1980年頃から、東京の婚姻占有率や離婚占有率は全国と比べて高いものでした。要するに、結婚も多いが、その分離婚も多かったわけです。それが2000年以降、婚姻占有率はどんどん上昇した反面、離婚占有率は全国平均同等にまで下がりました。結婚が多く、離婚が少ない、いわゆる「結婚持続率」が高まったということです。それに連動して、かつて圧倒的に低かった東京の出生数占有率も、2013年頃についに全国を逆転します。このデータからも、東京は結婚と出産の多いエリアに近年変貌したと言えます。

婚姻率・出生率ともに全国最下位の秋田

東京とは反対に、婚姻率と出生率ともに全国最下位を継続している秋田は、20代の転入超過率(2018年人口対比)もマイナスで全国最下位です。47都道府県すべての20代の転入超過率と婚姻率の相関を見ると、若者の転入が多ければ多いほど婚姻率は高まるという強い正の相関があることがわかりました。つまり、結婚と出生に影響を与えるのは若者がどれだけ転入してくるかであり、若者が外に出ていくエリアは自動的に結婚も出生も少なくなることを意味します。

かといって、地方の未婚の若者全員が都会へ移動するわけではありません。地元を愛し、地方でそのまま生活をする若者もいるでしょう。しかし、それは長期的には、都会と地方との所得格差を広げ、都会と地方との婚姻率や出生率の差となって表れます。未婚問題はかつて都会の問題といわれていましたが、今後は明らかに地方の未婚問題のほうが深刻になります。「職住」の問題は、「婚産」の問題と直結しているのです。

もちろん、東京一極集中が加速することでのリスクはあります。今回のコロナのような感染症や地震などの大災害が発生した際、人口集中がゆえに被害が甚大になってしまう危険性については、別途真剣に検討すべきです。

とはいえ、「リモートワークが可能になれば、地方移住も促進されるはず」「人口密度の高い都市型生活より、大自然の中で心豊かに生活したほうが充実するはず」という意見は、こと未婚の若者に関していえばまったく響かないものではないかと思います。

若者は人と出会うために都会に繰り出す

彼らは、仕事を求めて移動しますが、仕事があれば無人島でもいいというわけではありません。仕事が多くある場所とは、多くの人が集まる場所でもあります。彼らが都会に出てくるもう1つの理由は、人と出会うためでもあります。テクノロジーの発達によって、物理的に集まる必要のない環境が整ったとしても、今度はそれでは、若者同士の出会いがなくなります。人の多く集まるところで仕事や交流をし、多くの人たちと出会うことによって、若者は結婚し、子供を産み育てることになるのです。言ってしまえば、人のいない所に彼らは行きたくはないのです。

いずれにせよ、今後数十年にわたり、少産多死時代が続きます。人口減少は不可避です。地方に目を向ければ、全国1741市区町村の中で、2015年から2045年にかけて、人口100万都市の割合はほぼ変わらないのに対し、人口1万人未満の割合は、2015年の28%から、2045年には40%を超えます(社人研将来人口推計より)。人の死だけではなく、町の多死化時代がやってきます。私たちはこれから多くの町の死を目の当たりにするでしょう。そうした現実を前提とすれば、もはや人口を振り分けるという次元の問題ではなく、「町の終活」という視点も必要になるのかもしれません。