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ブロックチェーンの企業がDXに取り組む意味

新型コロナウイルスの感染拡大を経てさまざまな産業が転換期を迎える中、どんな業界にも共通するトレンドが「デジタルトランスフォーメーション(DX)」だ。その担い手として、ベンチャー企業が存在感を高めようとしている。
LayerX(レイヤーエックス)も、そんな企業の1つだ。5月にはジャフコ、ANRI、YJキャピタルなどのベンチャーキャピタル(VC)を引受先とし、総額約30億円の資金調達を実施。ブロックチェーン関連事業を祖業とする同社だが、今後はブロックチェーンに限らず、あらゆるテクノロジーを駆使したDX支援に踏み出す。
創業者の福島良典CEOは、ニュースアプリなどを運営するGunosy(グノシー)の創業や株式上場も経験した連続起業家。日本のDXの課題をどう解決するのか。また、激変するベンチャー市場をどう展望するのか。福島氏に聞いた。

技術を押し売りするだけではダメ

――創業時から長らく「ブロックチェーンの会社」というイメージの強かったレイヤーエックスですが、現在はもう少し広い範囲を担う「DXの会社」と打ち出しています。

会社として目指す方向や社会に提供したい価値は変わっていない。それは例えば、電子的なタイムスタンプの仕組みを使って証券取引をできるようにしたり、サプライチェーンのトレーサビリティを上げたりするなど、要は紙やハンコを使わずにデジタルなプロセスの中で証拠を残し業務を回せるようにすること。それがここ最近「DX」と呼ばれるようになった。

そこで僕たちも、ブロックチェーンという技術にこだわらずDXを進める会社になる、という意志表示をしたいと。ブロックチェーンは5年後、10年後に必ず普及する技術だと信じているけど、まだ先の話ではある。この半年で現実も見えてきた。「ブロックチェーンやりませんか」と提案しても、現状では正直、実証実験以外まったく進まない。技術を押し売りするだけでは、企業としても成り立たないと感じた。

重要になるのが、特に新型コロナを経て多くの企業が「待ったなし」と実感しているDXだ。単に目の前の稼ぎ口という意味合いだけではない。日本よりブロックチェーンの社会実装が進んでいるアメリカや中国では、その下地としてSaaS(Software as a Service)などデジタルのビジネスソリューションの普及がある。

――日本でもここが進まないと、ブロックチェーンどころではないわけですね。

レベルアップは段階的なものだと思う。ブロックチェーンが真価を発揮するのは、複数の企業間、産業間をまたぐやり取りだ。ただ正直、日本のデジタル化はもっと手前。まずはSaaSなどのソフトウェアを導入する。紙・ハンコを電子的なものに置き換える。これが目の前の課題で、「レベル1」。

ふくしま・よしのり/1988年生まれ。2012年東大大学院在学中にGunosy創業、約2年半で東証マザーズ上場。2018年8月LayerX創業(撮影:ヒダキトモコ)

「レベル2」は、そういうサービスを使って業務を構築していくこと。稟議のフローなどは、アナログベースのプロセスをそのまま踏襲するのではなく、デジタルに合った形に最適化していく必要がある。「レベル3」はそれを完全に自動化していくこと。機械学習プログラムや銀行APIみたいな仕組みを入れ、条件がそろった時点でお金すらも自動で流れるようにする。言い換えればオートメーション化だ。

そして「レベル4」が最初に挙げた企業間、産業間のコラボレーションを進めること。日本はまだ「レベル1」をクリアしようというところなので、その段階でブロックチェーンを当てはめに行くのは無理がある。ただし、「レベル1」のころから「レベル4」を意識しなければ、「RPA(単純作業の機械化)を導入して終わり」みたいな矮小な話になってしまう。「レベル4」のブロックチェーンを祖業とする僕らがDX事業に取り組む意味もそこにある。

「お金の流れ」「価値の流れ」に的を絞る

――それで最近は弁護士ドットコム(クラウド契約サービス「クラウドサイン」を提供)、マネーフォワード(クラウド会計などのバックオフィス向けサービス「マネーフォワード クラウド」を提供)など、SaaSプレーヤーとの業務提携を次々進めていると。

パートナーはいずれも「お金の流れ」「価値の流れ」のデジタル化に関わる企業だ。DXというとリモートワークから何から、範囲は広い。そこで僕らはある程度、「お金の流れ」「価値の流れ」に的を絞る。いろいろな規制が関わってくる領域なので、知見が必要になる。ブロックチェーンの実証実験を通じ顧客の課題を見てきた蓄積が生きるだろう。

折しも、4月には三井物産と次世代アセットマネジメントの合弁を立ち上げた。アセットマネジメントの業務フローは、稟議や送金指示など、投資家、外部事業者とのやり取りが非常に多い。かつそれらプロセスのほとんどが人為的に動いていて、膨大な紙とハンコが介在する。ここをデジタルで動かせれば、今までよりいろいろな資産を証券化、流動化できる。

三井物産では不動産、インフラといったオルタナティブ資産を対象にした、多数のアセットマネジメント事業を展開している。実際にアセットを所有する彼らに対し、レイヤーエックスは、いわば「デジタル証券変換器」を作るノウハウを持っている。アセットマネジメントはセキュリティ面など、規制もトップクラスに厳しいところ。ここでベストプラクティスを作れれば、おのずとほかの案件につながってくると思う。