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接触は減らせ!マックやワタミの壮大なる実験

マックはスマホアプリで”渋滞知らず”

なんといってもコロナ禍では、ドライブスルーの利用が急増した。店内に入らずに商品を買うことができ、感染リスクを軽減することが効いたからだ。ただ、利用者の急増によって道路で渋滞が発生し、近隣住民の迷惑となることもあった。また多額の設備投資が必要になることや、スペース上の都合から、ドライブスルーを設置できていない店舗も多い。

そこで各社が活路を見いだそうとするのが駐車場だ。日本マクドナルドホールディングスは、事前にスマホアプリから注文・決済して、駐車場で商品を受け取れる仕組み「パーク&ゴー」を導入。4月末に実験的に導入後、顧客の反響がよかったことからスピードを拡大。6月には全国33都道府県・約250店で稼働している。

事前にスマホで注文できる「モバイルオーダー」自体は、2019年から導入を進め、今年初めには全国展開していた。これまではテイクアウト商品をカウンターで受け取る場合と、店内飲食の場合にのみ対応していたが、今回、駐車場で受け取るという選択肢を増やした形だ。「新型コロナを受けて開発したわけでなく、以前から構想はあった。ただ現状を踏まえて、開発・導入を早めた」(日本マクドナルド)と、導入を急いだことを率直に明かした。

顧客はスマホで注文した後、自家用車で店舗に向かう。専用の駐車スペースに車を停めたら、駐車場番号をアプリで入力すると、登録したクレジットカードなどで決済が完了する。数分後、従業員が駐車場所まで商品を届ける、という流れだ。海外では「カーブサイド・ピックアップ」と呼ばれ、先行して導入されている。

マクドナルドの場合、全店舗の1割強に当たる300店まで、年内に導入店舗を拡大する計画だ。約1400店ある、ほかのテナントと駐車場を共有する店舗においては、マクドナルド単独の判断で導入できないため、今後協議を進めていくという。

設備投資額については「駐車スペースに設置する番号の書かれたポール、駐車場床面のプリント、店内の告知ポスターなど微々たるもの。とても安価に導入することが可能」(同)。駐車場さえあれば導入できることから、ドライブスルーを設置できなかった店舗での導入効果は大きそうだ。

また、松屋フーズホールディングスが運営する牛丼チェーンの「松屋」でも、駐車場で商品を受け渡す仕組みを導入する計画だ。マクドナルドのような専用アプリはないものの、電話などで事前に注文し、駐車場で商品を受け取る方式を拡大していく。

「ドライブスルー設置店舗は、コロナ禍でも売り上げの落ち込みが緩やかだったが、敷地面積を多く要するデメリットもある。駐車場での受け渡しであれば、スペースが小さくても可能だ」(松屋フーズ)と、駐車場を積極活用していく姿勢だ。

一方、顧客に来店してもらうのでなく、外出を控える顧客の家までデリバリーする動きも加速している。

ワタミはウーバーイーツよりも自社宅配

居酒屋「和民」や「三代目 鳥メロ」などを展開するワタミは、ウーバーイーツなどの宅配代行サービスに加え、自社独自の宅配を7月から開始すると発表した。対象となるのは、従来から持ち帰りやデリバリーの販売比率が高い「から揚げの天才」、「bb.q オリーブチキンカフェ」の2業態だ。

「片手間でデリバリーをやるなら、ウーバーは非常に便利。が、売り上げの多くをデリバリーが占めるとなると、手数料が収益を圧迫してしまう」。6月22日の記者発表会で渡邉美樹会長兼CEOは、自社で宅配を始める動機をそう語った。

コロナによって生活様式が変化した結果、売り上げに占めるデリバリーの比率は、から揚げの天才で約40%、bb.q オリーブチキンカフェで約25%にまで上昇したという。宅配代行サービスでは、商品単価の35%~40%の手数料に、配達料も上乗せされる。デリバリーが売り上げの多くを占める段階になると、自社で宅配すれば採算が上がると判断したわけだ。

ワタミでは、自社宅配が最も安いという「ベストレート保障」を掲げ、宅配代行サービスより3~4割安上がりになることを訴求していく。とはいえ、自社での宅配には、交通事故や人手確保などの課題もつきもの。これに渡邉会長は「(損害)保険や人手の問題はなかった。人手については、休業している店舗の社員に配達してもらう。ワタミで教育された社員が届けてくれるということで、顧客も安心するのではないか」と説明。課題を1つずつクリアしていく。

これまで店内飲食に専念してきたが、”片手間”で宅配代行サービスの導入に踏み切るのが、イタリアンファミレスチェーンのサイゼリヤだ。7月第2週から埼玉県の8店舗で、試験的に出前館を活用した宅配を始める。

6月23日に記者会見を開いたサイゼリヤの堀埜一成社長は「もともとテイクアウトもデリバリーもやらないと言っていたが、前言撤回するのは経営環境が大きく変わってしまったから。ここで自分たちが変わらないとガラパゴス化して死んでしまう」と危機感を示した。

それだけではない。サイゼリヤはこれまで2度の消費増税の際にも、299円(税込み)を維持してきた看板商品「ミラノ風ドリア」について、300円(同)へと改定する。7月1日にスタートする新しいグランドメニューでは、すべての商品を50円単位の価格設定にし、1円玉、5円玉、10円玉を使わずに支払えるようにした。これも感染予防対策の一環だ。

頑なに避けてきたキャッシュレス決済もついに全店へ導入する。7月から徐々に導入を進め、年内に完了する計画である。価格改訂とキャッシュレス決済によって、「レジでの接触を8割削減する」(堀埜社長)のが狙い。オーダーの際も、口頭での伝達から専用のシートに記入する仕組みに変更するなど、コロナ対策をあらゆる場面で打ち出す。

大戸屋は店舗のメニューを冷凍食品で

外食にとどまらず、内食の領域にまで攻めこむのが、定食チェーンの大戸屋ホールディングスだ。店舗で販売するメニューの一部を冷凍食品として開発し、5月20日から関東1都3県の22店舗で先行販売している。

看板商品の「鶏と野菜の黒酢あん」が1人前で580円(税込み)など、冷凍食品にしては少し高めの価格設定ながら、「私以上に味にこだわる職人のいる協力工場で、何度も何度も試作を重ねて作った」(窪田健一社長)と、品質の高さを強調する。実際、「想定の4~5倍の売れ行き」(大戸屋)といい、一時品切れになるなど好発進したようだ。冷凍食品なら在庫をストックしやすく、需要の拡大に応じて売り上げも伸ばしやすい。

7月からはさらに販売店舗数を拡大し、9月ごろに全店導入を予定している。インターネットでの通信販売も8月をメドに開始、今年度中にスーパーや量販店への卸売りも目論む。単なる外食企業の枠を超え、多くの販路を持つことで、withコロナの時代を生き抜く構えだ。

こうした外食企業の必死のコロナ対応のみならず、『会社四季報』では、どんな中期経営計画を描いているかなどを各社ごとに記載している。ほかにも、気になる企業の戦略がどうなっているか、ぜひ自身の目で確かめていただきたい。