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大企業就職は一生安泰か?

一流企業にいる人が、本当に優秀な人材か

皆さんは「仕事ができる人」と聞いて、どのような人を思い浮かべるでしょうか。

1流大学を卒業し、東証1部上場企業に就職した人。高級スーツを身にまとった官庁の職員。確かに、仕事ができそうな雰囲気がします。

もちろん彼らの中には「仕事ができる人」がたくさんいますが、一方で、地位や肩書きだけで優秀さを測ることはできないということも、覚えておいたほうがいいでしょう。

僕は以前「世界で最も優秀な人材が集まる」と言われる企業の1つ、Google Japanでアジアパシフィック地域の人材開発責任者をしていました。つまり、世界的に見て最も「仕事ができる人」が集まる組織の採用・育成担当者です。

僕が見てきたメガベンチャーでは、優秀さの定義を地位や肩書きで判断しません。学歴がなくとも優秀な人材が山ほどいることを理解しているので、地位や肩書きといった色眼鏡を外し、「本当に優秀な人」かどうかで入社可否を判断します。

具体的には、「挫折経験の有無」と「挫折を乗り越えた経験」が重要な採用基準です。独自の研究で「壁を乗り越える経験をしてきた人材は、高いパフォーマンスを発揮する」ことがわかっているので、ただ有名大学を卒業しただけの人材よりも、ハングリー精神があり、やり切ろうとする精神を持っている人材を評価します。

もちろん海外の1流大学を卒業した社員がたくさんいますが、一方で無名大学を卒業した社員も少なくありません。従来の優秀さの定義でいえば、ある意味“玉石混交”の組織だといえます。

それでも、僕のいたメガベンチャーは「時価総額ランキング」でつねに上位を占める世界トップクラスの企業へと成長しました。つまり、その「仕事ができる人」の基準は間違っていないのでしょう。

今後、この流れは、ますます加速していくはずです。僕たちはそろそろ、「優秀さの定義」を、改めなければならないのではないでしょうか。

一方で、企業も変わりつつあります。

僕の知る限り、日本は世界的に見ても“大企業信仰”が非常に強い国です。もしかすると、今この記事を読んでくれている人の中にも「有名大学を卒業し、有名企業に入社すれば、エリートになれる」と考えている人もいるかもしれません。

就活生向けに就職情報サイトを運営している株式会社マイナビの調査によると、学生が企業を選択する際のポイントとして、「安定している会社」が第1位に選ばれたそうです。もちろん、わざわざ安定していない会社に就職したいと考える人は、そう多くないでしょう。僕も学生だったら、「明日潰れる可能性がある会社」には就職したいと思いません。だから、この結果にはある程度納得をしています。

そんな風潮があるからか、入社2~3年目の若いビジネスパーソンの方の中には、「やっぱり大企業に入ればよかった」と思っている人もいるかもしれません。しかし、企業規模だけで、いい会社かどうかを判断することは正しいのでしょうか?

僕は今後、時代の変化に伴い、「いい会社」の定義も変わってくるように思います。

「いい会社に入りさえすれば、一生安泰」は幻想

企業に対する一般的なイメージとして、「企業規模=生命力」という誤解があると思っています。しかし、「大手企業は潰れない」というのは、間違いです。

たしかに、設立間もなくて売り上げも少ない会社を見れば、生命力があるようには見えないと思う方もいるかもしれません。でも、規模の大きな企業だからといって、生命力があるとは限らない。

大手企業が経営危機に陥り、海外の企業の傘下に入ることも少なくありません。海外の超有名企業を市場から撤退させるほどの勢いを持っていた東芝でさえ、現在こそ経営再建に向けた第一歩を踏み出しているものの、つい最近までは経営危機に瀕していました。

これらの例はあくまでワン・オブ・ゼムですが、事実、平成の30年間における上場企業の倒産件数は233件で、平均すると年約7.7件が倒産していることになります。

かつての日本には、「終身雇用」や「年功序列型賃金」という、「いい会社に入りさえすれば、一生安泰」な慣習がありましたが、正直にいって、もはや幻想です。

日系最大手である「トヨタ自動車」の豊田章男社長は、「終身雇用の限界」について言及し、経団連の中西宏明会長は、終身雇用について「制度疲労を起こしている」と発表しています。

近年、日本の経済的躍進を支えてきた大手企業が、大規模なリストラを敢行していることを考えれば、所属する組織に安定を求めることが、いかに残念な考え方であるかがわかると思います。

また、典型的な日本的考え方で「いい会社」とされる大手企業の多くでは、入社数年時点でコアメンバーを選出し、いわゆる出世コースに乗る人材とそうでない人材をふるいにかけます。つまり、入社して数年後には「出世コースに乗れず、指示がなければ仕事をすることができない」人材になってしまう可能性があるのです。

大企業に所属しているという安心感はあるかもしれませんが、出世が望めず、経験を積めない組織で働くことが、本当の意味で安定といえるでしょうか。僕は、そうは思いません。

これからは、「優秀さの定義」と「安定の定義」が、所属する会社ではなく個人に求められる時代になります。もう、「大企業に就職しさえすれば、一生幸せに暮らせる」といった、安易な考えは捨てましょう。

大企業 vs ベンチャー vs 外資系

とはいえ、世の中には大手企業にしかできない仕事というものもあります。

大規模な都市開発は大企業が旗を振って行うことが大半ですし、通信やインフラの事業など広い地域をカバーする仕事にも、ある程度の企業規模が必要でしょう。大企業では、豊富なリソースがあるからこそ可能な、文字どおり世界に貢献するスケールの大きな仕事ができます。

ただし、大企業は職務が細分化されているため、自分のやりたいことができなかったり、全体が把握できなかったりと、デメリットもあります。

例えば、セールスの業務にしても、大企業では切り出された特定の業務を担当することが少なくありません。しかし、少人数で仕事を回さなければならない中小企業やベンチャー企業では、早々にセールスフローの全体を把握することができるかもしれません。将来的に起業を目指したいのであれば、後者のほうが勉強になることが多いでしょう。

また、大企業は特定の決められた業務の中で「あなたはこれをやりなさい。そのためにこういうふうに動きなさい」と決まったパターンの中で動くことが多いです。

対してベンチャー企業では、ゼロベースで動くことが多いでしょう。決まった枠の中で動くのではなくて、ゼロから自分のつくりたい世界をつくっていくような醍醐味があります。

外資系企業も個人の自立した働きが求められますが、結果は日本企業よりシビアに見られるかもしれません。ある企業では、ハイパフォーマーはかなり優遇されますが、パフォーマンスが下がると途端にたたかれるような文化があります。

ちなみに、「大企業に就職することは、よくないことだ」と言いたいわけではありません。思考停止して、すでに過去のものになっている理想のワークスタイルを追いかけているようでは、自分らしく働くことは難しいということを伝えたいのです。

働き方の選択肢は、日々多様化しています。「副業」という新たな潮流も生まれ、大企業に所属しながらベンチャーと仕事をする人もいます。スキルを身につけ、早々にフリーランスとして活動する人もいるでしょう。

でも、この中でどれがいい、というものではありません。大切なのは、過去に築かれた王道のスタイルを盲目的に追いかけるのではなく、複数ある選択肢の中で、自分が何を選んでどう成長していきたいのか、どんな軸を持って働く場所を選んでキャリアをつくっていくのかを自分の頭で考えて行動することです。

日本では、「有名大学に入学して、その経歴を生かして有名大企業に入る」というのが理想的な流れだと考えられているフシがありますが、海外の当たり前とは違います。海外の学生は学生時代にフリーランスを経験したり、大学の途中でフリーランスをやってみたり、スタートアップで働いてみたり、やりたいことや学びたいことをつど試し、理想のキャリアパスを考えます。

要は、やりたいことを明確にするために動き、それを実現するために働くのです。大学でも、そうした主体的な行動が当たり前です。例えば経営学部であれば、マーケティングに関心があるのか、それとも経営に興味があるのかなど検討して授業を選び、得たいスキルを学び、インターン先も探していくということをしています。

働き方を選択する時代がやってくる

「いかにキャリアをつくるか」の選択が、所属する会社ではなく個人に求められる時代に必要なのは、「自らの意思で行動を起こす人」だと思います。

なぜなら、「自らの意思で行動を起こす人」は、会社が機会をくれなくとも、自ら機会をつくり出すことで、ビジネスをつくり出す方法やプロジェクトを推進する方法を身につけることができ、成功もしくは失敗経験から、自分なりの仕事論を確立していくからです。 

彼らのように行動力を持った人と、「とりあえず大企業に就職すれば大丈夫」と二の足を踏んでいる人との間には、ものすごい速度で距離が開いてきます。数年もすれば、その差は歴然でしょう。「一流大学を卒業した」「超がつく有名企業に所属している」というのは、実力ではありません。

以前は、それで成功が約束された時代だったかもしれませんが、これからは話が変わってきます。人材の流動性が高まり、転職も副業も当たり前になったこの時代に、真に評価されるのは「実力のある人」です。地位に固執しているようでは、時代に取り残される「オールドエリート」になってしまいます。

社会人になって間もない方はとくに、その事実を踏まえて毎日を過ごすようにしてください。「自分はどのような企業に所属しているか」ではなく、「自分は何ができるか」「何がやりたいのか」「自分の所属する会社は、今後どのような成長機会を提供してくれるか」でワークスタイルを考えるようにしましょう。

そうでなければ、会社が倒産したり、リストラされた途端に、「何もできない人」になってしまいます。変化が激しい時代ですから、所属する会社に左右されずに、自分で働き方を選択できる準備をしておくべきです。