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コロナ禍で「テレビ復権」が進んだ決定的証拠

新型コロナウイルスの感染拡大により、4月、5月と日本では過去に例を見ない巣ごもりが本格化した。今までとは違った行動を余儀なくされる中、生活者のテレビ、パソコン、モバイルなどへのメディア接触は、どのように変化したのか。

市場調査会社のインテージでは、「新型コロナ拡大初期(1月20日~2月23日)」「専門家会議『これからの1~2週間が瀬戸際』発表後(2月24日~4月6日)」「全国への緊急事態宣言後(4月7〜28日)」「ゴールデンウィーク期間(4月29日~5月10日)」「ゴールデンウィーク後(5月11〜17日)」という5つの期間に分けて、メディア接触変化を分析した。

その結果、生活者のメディア接触は驚くほど大きく変化していることがわかった。具体的には、「テレビ視聴の“山”であるゴールデンタイムが前倒しになる」「増え続けていたモバイルへの偏重にもストップがかかり、メディアの勢力図に変化の兆しが見られる」など、興味深いデータが続出した。

なお、コロナ禍の影響を示すデータとして、インテージ「i−SSP®」「Media Gauge® TV」を利用した。

テレビとパソコンに復権の兆し

1月20日週のデバイス1日・1人当たりの接触時間を100として、週次の動向を見ると、全体的にテレビとパソコンの接触時間は増加し、モバイルは微増にとどまっていることがわかる。

とりわけテレビは、平日・土日祝日とも3月23日週から急増。緊急事態宣言後の4月13日週の平日が128でピークとなった。ゴールデンウィーク以降はやや減少したが、110以上の伸び率を維持しており、依然としてコロナ前より接触時間は多い。

パソコンも、3月下旬から数字を大きく伸ばし始め、4月27日週の平日に135に到達。以降も120以上が続いている。コロナ拡大前はモバイル全盛だったが、在宅率が高まり、特に在宅利用されやすいテレビとパソコンで増加が見られた。

情報収集をするなら、まとまった情報を得られるテレビ、能動的な情報収集が可能なパソコン、即時性が高く多様な情報が流れてくるモバイルを使い分け、自宅での自分時間を楽しむのにも、動画は大画面のパソコン、個人で楽しむゲームはモバイルと使い分けるなど、デバイス利用の棲み分けがあらためて鮮明になった。

ゴールデンタイムが1時間前倒し

総接触時間だけでなく、時間帯にも大きな変化が生じていた。

「新型コロナ拡大初期」と「ゴールデンウィーク以降」の平日の時間帯別接触率(1日当たり)を比較すると、モバイルは在宅の増加により移動時間利用が減り、「6~8時台」で3.2〜5.5ポイント、「21~24時台」で1.3〜4.3ポイント減少している。

一方、テレビは、平日の通勤時間帯の「8~9時台」で2.7〜4.1ポイント、「18~20時台」で3.3〜5.0ポイント、また昼休みの時間の「12~13時台」で4.7〜5.4ポイント伸長している。

通常「ゴールデンタイム」と呼ばれるのは19~22時だが、18時台の接触率が4.4ポイントほど伸長。ゴールデンタイムが前倒しした格好となった。

生活者の行動変化の影響により、メディア接触も変化していることから、今までとは違うターゲットが広告や番組を視聴していることも推察できる。ウィズコロナ、新しい生活様式が続くことを想定するならば、メディアプランや番組づくりを見直す必要もあるかもしれない。

 

大きく接触時間が増えたテレビだが、ジャンル別で見ると、コロナの情報収集ニーズの高まりによって、緊急事態宣言後、平日の接触率は「ニュース/報道」が54.2%、「情報/ワイドショー」が54.9%と、一気に伸びている。相対的に信頼度が高いと思われているテレビで情報収集をするようになり、それがゴールデンウィーク以降も定着したことがうかがえる。

一方、「ドラマ」が39.4%、「映画」が8.5%と、ゴールデンウィーク後の土日祝日の接触率が伸びていた。以前のように休日に外に出かけられなくなる中、家でじっくり楽しむコンテンツとしてのニーズが表れている。

再評価が進む過去のコンテンツ

テレビのドラマ接触率を見ると、緊急事態宣言以降、NHK以外では「SUITS/スーツ2」(フジテレビ系)、「美食探偵 明智五郎」(日本テレビ系)などの新作ドラマ以上に、「JIN-仁-レジェンド」(TBS系)、「野ブタ。をプロデュース」(日テレ系)、「恋はつづくよどこまでも胸キュン!特別編」(TBS系)、「春子の物語 ハケンの品格2007特別編」(日テレ系)など、過去のコンテンツをまとめた番組が高くなっている。

新たなコンテンツの制作が困難な中、ドラマの視聴を支えているのは再放送だ。中でも、TBSと日テレのドラマ接触率が高い。

また、パソコン・モバイルの土日・祝日の1日の接触時間(接触者当たり)を見ても、見逃し配信や過去のコンテンツが見られる「Paravi」(24分増、パソコン)、「フジテレビオンデマンド」(12分増、パソコン)、「U-NEXT」(21分増、モバイルアプリ)などが高くなっている。前回の放送時に視聴した人、または視聴しなかった人が、触れる機会が増えたことで、過去のコンテンツが見直されている可能性がある。

提供側は「パソコン・モバイルで評価の高かったコンテンツをテレビで利用すること」など、生活者のニーズへの対応が望まれる。テレビにとっては、情報を提供するメディアとしての側面とコンテンツ面の双方の価値が見直されるチャンスともいえる。

緊急事態宣言からゴールデンウィーク後まで約1カ月の巣ごもりが続くと、生活者は「ゲーム」(土日祝日:13分増)、「有料定額配信」(土日祝日:11分増)、「動画」(平日:3分増)、「マンガ」(平日:10分増)などで、自宅での時間をじっくり楽しむ工夫を始めた(カッコ内の数値はモバイルアプリ接触者当たり接触時間)。

接触率(平日・1日当たり)はモバイルで2.1%、パソコンで0.7%とまだ低いが、接触時間(パソコンで26分増)が伸びたコンテンツの1つは「radiko」である。一般的にラジオはクルマの中で聞く機会が多いメディアであるが、コロナ禍に際しては在宅で仕事や家事をしながらラジオを聴く習慣が復活しそうな動きがある。

また、Web会議サービス「Zoom」も平日のパソコンでの接触率(2.1ポイント増)・利用時間(8分増)が高くなった。ビジネスをきっかけに同サービスを使い始めた人が多いと思われるが、プライベートでも「オンライン飲み会」などで活用しているようだ。

生活者はおうち時間を楽しむために、オンラインを活用し、いろいろな工夫をしようとしている。コロナ禍で少しずつ見え始めた新しい兆しをキャッチする必要がある。

メディアのニューノーマルをとらえる

コロナ禍によって生活が変わり、結果としてメディア接触が変化したことを確認できた。巣ごもりの中で生活者の行動・意識は、以下の4つの方向に集約されてきた。

(1)在宅率増加により、生活者の「デバイスの使い方」が変わる
 ・テレビ・パソコンの接触時間増加
 ・テレビ・パソコンの特性が見直され、モバイルも含めたデバイスの使い分けが鮮明になる
(2)移動時間減少により、生活者の「メディア接触時間帯」が変わる
 ・ゴールデンタイムが1時間前倒しになる
 ・食事時間のテレビ接触増加
 ・通勤の減少・分散によりモバイル利用の山がなだらかになる
(3)生活者のコンテンツに対する「評価の軸」が変わる
 ・ドラマ再放送など、過去のコンテンツが再評価される。
(4)「生活の楽しみ方」が変わる
 ・オンラインでの工夫、おうち時間を楽しむ工夫にチャレンジする生活者が多くなる

これらのニーズをとらえ、ウィズコロナを見据えることが、今後のビジネスを展開していくうえで重要になりそうだ。