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喋りすぎ営業は禁物!傾聴力が最強なわけ

「自分は交渉が苦手だ」と考えている人は、得意だと考えている人より多いのではないかと思いますが、その理由として「私は口ベタだから」とか「自分は気が弱いもので」「相手に強く言えない」というのをよく聞きます。

たしかに「交渉がうまい人」と聞くと、立て板に水のようにペラペラ話し、強気で自分の意見を主張して、相手を圧倒する人というイメージがあります。

口ベタな人や気弱な人は、セールスパーソンのマシンガントークに押し切られて、つい品物を買ってしまったり、ビジネスの交渉でもほとんど発言することができず、相手の要求どおりの内容で合意させられてしまったり、家庭では妻の言いつけにいっさい逆らえず、小さくなっていたりする人もいるかもしれません。

なぜ「強気な営業スタイル」はダメなのか

では、口ベタな人や気弱な人が交渉上手になるには、そのような自分を捨て、饒舌で強気な人に変身しなければならないのでしょうか?

口が達者で、強気で反論や批判などを気にせず、自分の意見をガンガン言えるような人であれば、交渉に対してコンプレックスを持ってはいないでしょう。

そもそも、本記事に興味を抱くようなことはないかもしれませんし、そういう人は、そのまま自分のスタイルで交渉をしていくのでしょう。しかし、相手の事情に配慮せず、とにかく強気で押す交渉は、相手から反感を持たれて、交渉が決裂しやすいという欠点があります。また、相手が条件をのんでくれたとしてもイヤイヤであり、悪感情を持たれることも多いでしょう。

1回限りの交渉ならいいかもしれませんが、継続的な取引関係や家庭内など、今後もつき合っていく間柄の場合には、信頼関係を悪化させてしまうこともあるでしょう。

交渉術に関する古典的名著『ハーバード流交渉術』(フィッシャー&ユーリー、金山宣夫・浅井和子訳、三笠書房)では、このような強気で押す交渉方法を「ハード型交渉術」と呼んでいます。ハード型交渉術の特徴としては、交渉相手を敵と見なし、勝利を得ることを目的としていることです。

自分の立場を強調して圧力をかけ、脅しを使うことで、相手に譲歩を迫るのです。その結果として、合意という勝利を勝ち取ろうとします。

しかし『ハーバード流交渉術』においても、このハード型交渉術の強引さは、相手の強引さを招き、交渉相手との関係を悪化させ、対策を枯渇させると警告しています。

「まわりの人との関係を悪化させてでも、とにかく交渉で勝てればいい」ということであれば、強気の交渉方法を維持するということも、その人の価値観かもしれません。ただ、そうでないならば、やはり相手の事情にも配慮し、納得を得た上で合意形成をしていくことを目指していくことになります。

そのためには、弱気であっても口ベタであっても、一向に構わないのです。

「しゃべりすぎ」は失敗の元

口達者であるという点も、交渉では考え物。しゃべりすぎが、失敗の原因になることがあるからです。

普段から自分の思っていることをよくしゃべる人は、その場で言う必要もないのに、自分に不利になることを、つい口に出してしまうことがあります。結果、交渉が悪い方向に進んでしまうのです。

ある企業の営業担当者が、新規取引獲得に向けて相手会社と交渉をしています。営業担当者はなかなか口達者で、交渉中も冗談なども交えてよくしゃべり、交渉はおおむね和やかに進んでいます。

何回か交渉をおこない、条件に関する話し合いもつめて、相手会社も、その内容で合意する姿勢を見せ始め、契約締結は目の前という状態です。ここで営業担当者は安心し、上機嫌で次のようにポロっと言ったらどうでしょう?

「いやぁ、ほんとよかったです。じつは私、先月、営業部に転属されたばかりで、全然契約が取れてなかったんですよ。どうしても今月中に1件は取らなきゃとあせっていたところなので、ほんとありがたいです」

これを聞いた相手は「担当者がまだ営業に慣れていないこと」「どうしても契約を取りたいと思っており、破談にする選択肢がないこと」「今月中という期限があること」を知ります。いくら話し合いが進んでいても、まだ契約は締結していないのです。

それなら、今月中という期限ギリギリまで引き延ばし、どうしても契約を取りたいと思っている担当者から、もっと有利な条件を引き出せそうだ、と考えるはずです。

つまり、余計なことを話してしまったために、自分にとって不利な情報までも相手に与えた結果、交渉が不利になっていくというパターンです。

もう1つ、セールスでの例を見てみましょう。ある営業担当者が、客に流暢に商品の説明をしたあとに聞きました。

営業「これらの機能がついて、この金額は本当にお買い得です。気に入っていただけましたでしょうか?」
客「……」
営業「どこか気になるところがございましたか?」
客「……」
営業「やはりお値段でしょうか? そうですね、お値引きさせていただいて、○○円ではいかがでしょう?」
客「……」
営業「う、わかりました! 送料と設置費用もサービスします」

この担当者は、なぜ勝手に値引きを始めてしまったのでしょうか? それは、客が黙ってしまったので「何か気に入らないところがあったのだろう。金額に納得がいかないのだろうか? このまま断られてしまうのではないか?」と考えて不安になり「その点を補うためにしゃべらないと!」と思ったからです。

でも、じつは、客は最初の金額で納得していて「この商品を買ったら、家のどこに置こうかな……?」などと考えていたから黙っていただけかもしれません。

喋れば喋るほど「交渉では不利」になる

ちなみに、私は、法律相談で相談者から話を聞いたときは、解決策として考えられる方法をアドバイスしてから「私たちが依頼をお引き受けすることもできます。ご依頼いただいた場合の費用は○○円です」と提案し、その後は黙っています。

依頼してもらおうと次の言葉を続けたりしません。この間、相談者は、自分の問題、解決方法、依頼した場合の費用など、いろいろなことを考えているからです。

沈黙が長く続くこともありますが、私は気にせずに黙っています。そうすると、相談者は、熟考した末で「では、お願いします」と依頼をしてくれることが多いです。

交渉は「とにかくしゃべって自分の考えをわかってもらおう」とする人が多いのですが、しゃべりすぎは注意しなければなりません。

先ほどご紹介したように、かえって自分に不利な情報を与えてしまったり、相手がせっかく考えてくれているのに、その思考を妨害したりという弊害もあるのです。