猛烈なかゆみ、網戸すり抜ける「スケベ虫」被害増加

鳥取県米子市や鹿児島県奄美大島などの一部地域で近年、「干拓虫」や「スケベ虫」などの通称で呼ばれる虫の被害が増えてきている。かまれると強いかゆみに襲われ、症状が1カ月以上続く人も。とても小さく、気付かぬうちに衣服の下に潜り込むことから被害を防止するのが難しいという。住民から対策を求める声も上がるが、その生態には謎が多く、自治体は対応に苦慮している。 

駆除求める嘆願

 その虫の正体はハエの仲間「ヌカカ」。体長1~2ミリの小さな虫で、網戸を簡単にすり抜ける。かまれると赤くなり、人によってはかゆみや腫れが1週間以上続く。鹿児島県瀬戸内町の70代女性はその被害について「蚊よりかゆくて長く症状が続く。耳の中が化膿(かのう)して入院した人もいる」と語る。

鹿児島大学国際島嶼(とうしょ)教育研究センターによると、県内の奄美大島や加計呂麻島(かけろまじま)(同町)で確認されているのはヌカカの一種でトクナガクロヌカカの亜種。島では、小さくて気付かぬうちに衣服の下に潜り込むことから、「スケベ虫」「エッチ虫」などと呼ばれている。

 3月末から5月初旬が発生のピーク。住民たちは耳に綿を詰めたり、風呂敷を頭にかぶったりして外出するといい、発生時期に島外に避難する人までいるとか。加計呂麻島にある芝集落の豊島主税区長(74)は「かまれたときには気付かず、翌日になってかゆみが出る。砂浜を訪れる観光客が島を離れた後に大変な思いをしていないか心配」と不安がる。

 芝集落は昨年3月、瀬戸内町に駆除を求める要望書を提出した。

 駆除策として生息場所とみられる海岸近くの砂地への薬剤散布などが考えられる。だが、町によると、発生源が特定されていない上に環境への影響を考えると、すぐには対応が難しいという。

観光客に被害も

 沖縄県の久米島(沖縄県久米島町)では近年、ヌカカの活動範囲が広がり、観光客に被害が出るようになったという。こちらは発生時期は2~5月。アーサ(ヒトエグサ)を採るときに被害に遭うことから地元では「アーサ虫」と呼ばれている。

久米島町によると、平成22年から県衛生環境研究所や町などが調査研究。現在は観光地周辺で薬品シートを巻いたペットボトルのわな約700個を設置したり、空港の駐機場に薬剤を散布したりして効果を確かめている。ただ、幼虫の生息場所が特定できていないため、発生抑止にはつながっていないという。

 一方、鳥取県西部の米子市弓浜地区では毎年5、6月に最盛期を迎える。同市では、干拓工事が行われた湖・中海(なかうみ)側で多く見られることから「干拓虫」の通称で呼ばれてきた。

 弓浜地区にある彦名公民館の上坂厚生館長(69)は「畑仕事をしている人には頭を覆って作業している人もいる。大量に寄ってきて仕事にならないという声も聞く」と話す。同公民館では新型コロナウイルス感染防止のため窓を開けて換気しているため、虫よけスプレーが欠かせないという。

餌や生存期間など生態には謎が残るが、調査で解明されてきたこともある。

 同市内ではトクナガクロヌカカとイソヌカカの2種類が確認され、吸血するのは雌と判明。朝夕や雨上がりの無風の日に多く飛び回る傾向があり、荒廃農地などに幼虫が生息していることも分かった。

 市は、発生抑制には石灰を散布して土壌をアルカリ性に変えたり、土を掘って卵を掘り返したりすることが有効と分析。昨年度から、石灰散布などを行う自治会や土地所有者に補助金を交付するモデル事業を実施しており、効果を実証して本格的な駆除につなげたい考えだ。

 米子高専の調査によると、今年は昨年に比べてやや発生数が多いという。同高専の伊達勇介准教授は「長袖を着ていても隙間から入ってくるので服の内側にも防虫スプレーをしてほしい」と呼びかける。

 鹿児島大学国際島嶼教育研究センターの大塚靖准教授(衛生動物学)はヌカカの被害が増えてきている状況について、「昔から地域それぞれの呼び名で、季節の虫として住民を悩ませてきた。各地の事例が報告されてきたことで『ヌカカ』被害として認知され、被害を訴える人が増えているのではないか」と推察している。