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コロナ継続支援でベーシックインカム導入を-諮問委新メンバー小林氏

(ブルームバーグ): 東京財団政策研究所の小林慶一郎研究主幹は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた個人の生活再建と事業転換を支援するため、生活に最低限必要とされる現金を定期的に支給する「ベーシックインカム」の導入を検討すべきだと提唱した。コロナ対策で悪化した各国の財政を立て直すためには、国際社会が協調して金融取引の収益に課税するトービン税を導入する必要性も訴えた。

小林氏は、新型コロナ対策を多角的に検討するため、政府が5月に感染症の専門家が中心だった「基本的対処⽅針等諮問委員会」のメンバーに加えた経済の専門家4人の1人。15日のインタビューで小林氏は、「1-2年感染症の危機が続くという前提で考えると、1年くらいお金を出して支え続ける必要がある」と語った。新型コロナ対策に盛り込まれた一律10万円給付や事業者を対象とする100万-200万円の持続化給付金では不十分との認識だ。

具体的な措置として小林氏は、全ての希望者に1人当たり毎月10万-15万円を1年間給付し、宿泊や飲食を中心にコロナの影響が長期化するとみられる接触型産業からの転職など、事業転換や構造変化を促す必要があると指摘。財源は1-2年後の確定申告や年末調整時に、所得が増加して生活を再建できた受給者の所得税に上乗せ課税して給付金を事実上回収する「所得連動課税条件付き給付」を想定している。

この仕組みを実行するためには、「マイナンバーを全ての銀行口座にひも付けて、個人の全ての所得減を把握しないと公平性を保つことはできない」としながらも、プライバシーの問題を乗り越えて「国民的合意形成ができれば、公平性を保ち、モラルハザード(倫理観の欠如)を回避した形でベーシックインカムのような政策も実行でき、社会保障制度の大きな前進になる」と語った。

ベーシックインカム

ベーシックインカムを巡っては欧州で類似の取り組みが先行している。スペイン政府は、新型コロナの影響で困窮する低所得家計に1世帯当たり月462-1015ユーロ(約5万6000円-12万3000円)を支給する制度の導入を5月末に閣議決定した。

2017-18年に失業者2000人を対象に月560ユーロを支給するべーシックインカムの社会実験を行ったフィンランドでは5月に最終報告書を公表。受給者に精神面での安定や幸福度の向上が認められた一方、労働市場の改善にはつながらなかったという。

小林氏は今後の感染症対策について、「緊急事態宣言は非常に経済にとってコストが大きく、2-3回目を回避できるようにした方がいい」と助言している。感染第2波に伴う経済損失は推計で20兆-30兆円に上り、「戦後経験したことがない経済の悪化度合い」だという。

感染第2波による景気の底割れを防ぐめには、特に現在1日当たり2万8000件程度のPCR検査体制を「数値目標を定めて強化することが必要だ」と指摘。新型コロナと症状の似ているインフルエンザ患者が増える11月ごろまでに、インフル患者も含め感染が疑われる全ての患者に検査ができるよう1日20万件の検査体制を整えるべきだと語った。世界的な移動制限で落ち込んだインバウンド需要を回復させるためにも、検査能力の強化は不可欠だとの見方を示した。

トービン税導入で国際協調を

新型コロナ対策を踏まえた20年度の一般会計歳出総額は160兆円、新規国債発行は90兆円を上回り、それぞれ過去最高を更新。小林氏は、「感染症危機が数年後に終わった時に100兆-200兆円とかものすごい金額で国の借金が増えているはずだ。感染症危機で国内総生産(GDP)の半分くらい借金が増えるという現象は日本だけではなく世界的に起きる」と述べ、それに対応するための国際協調の枠組みが必要だと述べた。

具体的には、金融取引の収益に課税するトービン税の導入を提案。「一つの国がトービン税を導入すると、投資家の資金は全て海外に逃げてしまうが、世界中の国が一斉にトービン税をかければ、投資家はどこにも逃げられなくなるため、低い税率でもかなりの税収が得られる」とみる。世界各国が合意できれば、「1-2年間かけてコロナ対策で増えた各国の借金は、その税収で減らしていくという考え方ができるのではないか」と述べ、20カ国・地域(G20)財務相会合などの場で議論すべきだとの考えを示した。

小林氏は1991年に東大大学院修士課程修了、通商産業省(現経済産業省)入省、98年にシカゴ大学博士(経済学)、2013年から慶大経済学部教授。経済産業研究所上級研究員、東京財団政策研究所研究主幹などを兼務する。3月に他の経済学者らとともに新型コロナの経済対策に関する共同提言を発表した。