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ヘアカラーは自分と美容室とではどう違うのか

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、不要不急と判断して美容室の利用を控えてきた人も多いのではないか。しかし伸び放題の髪はうっとうしく、とくに美容室で白髪染めをしていた人などは、鏡に映る自分を見てげんなりしているかもしれない。

かくいう筆者もその1人。最近、雪をかぶった富士山状態の頭頂部に耐え切れず、市販の白髪染め製品に初めて挑戦した。そんな人も多かったのだろうか。国内の女性向け白髪染め(ホームケア)市場がにわかに伸びたという。

もともと白髪染めのホームケアの女性市場は、美容室利用者の増加で縮小傾向にあり、今年も個数ベースで前年比を割る週が続いていた。しかし3月30日週以降、100%を超える週が増え、111%まで伸びた週もあるという。

しかし、急に市販品をと思っても種類が豊富で、正直何を選べばよいかわかりにくい。筆者と同じく白髪に悩む担当編集者は「美容師に『髪が弱いし傷むから、絶対に自分で染めてはダメ』と言われている」と怯えていたが、それが本当なら肌が弱い筆者も市販品は避けたほうがよいのだろうか。

一方、今までお世話になった美容師の中には「市販品と美容室のカラーに違いはない」と話す人もいた。いったい、何が本当なのか。

そこで、市販品の選び方や美容室との違いのほか、髪や肌が弱い人でも使えるものや日常のケアなどについて、専門家に話を聞いてきた。ご協力いただいたのは、ヘアカラー業界トップシェアであるホーユーの研究員、薦田剛さん。現在、一般消費者向けの白髪染め製品の開発を担当している。

美容室との違いとは?

――「自分で染めると傷む」と美容師さんに言われたことがある人は少なくないと思いますが、そんなに市販の薬剤は強いのでしょうか。

いいえ、市販品の薬剤だから傷みが強いというわけではないんです。市販品も美容室向けも、医薬部外品のヘアカラーは薬機法で規制されており、成分にも基準があるため使用できる成分に大きな違いはありません。

ただ、ニーズに合わせて、決められた基準の中で配合する種類や量、バランスなどを変えています。市販品はセルフでムラなく染めやすいよう調整しており、手間を減らすため早染めタイプを作るなどしています。使用説明書どおりに使えば、ダメージを少なく抑えることができます。

一方、美容師さんは、髪質やカラー履歴、髪のダメージ具合など一人ひとりの状態を見て薬剤を使い分け、塗り方や放置時間を変えたり、途中で染まり具合をチェックして調整したりもします。つまり、業務用は美容師さんが各自でアレンジして使いやすいように作っており、美容師さんの技術によってヘアカラーによるダメージを少なく抑えています。

市販品を推奨しない美容師さんもいますが、それはお客様のカラー履歴を充分に把握できないことも1つの理由ではないでしょうか。カラー履歴に基づきキレイに染めたいのに、履歴がわからないと仕上がりが予想しにくくなります。もし市販品と美容室を併用する場合は、美容師さんに何を使ったか一言報告して相談するとよいかもしれません。

白髪染め製品は主に4つに分けられる

――市販の白髪染め製品を選ぶ際、注意点はありますか。

まずは箱に「白髪用」と記載があるものを選んでください。「白髪用」は白髪と黒髪のコントラストをなじませるよう作っています。「黒髪用」は色の作り方が違っており、白髪が染まらなかったり、不自然な色味になったりすることがあります。

種類は大きく分けて4つ、①ヘアカラー、②ヘアマニキュア、③カラートリートメント(リンス)、④一時着色料です。①は医薬部外品、②③④は化粧品に分類されます。

市販の白髪染めは、大きく4タイプにわけられる。①ヘアカラー、②ヘアマニキュア、③カラートリートメント(リンス)、④一時着色料、4つだ写真提供:ホーユー)

――最もメジャーと思われるヘアカラーは、どのような人に向いていますか。

永久染毛剤と呼ばれており、一度で髪を染め上げるのでしっかり染めたい人に向いています。薬剤のタイプとしては主に、泡、乳液、液状、クリームがあります。

全体を染めたい人は泡や乳液、液状タイプがいいでしょう。クリームタイプは狙った箇所に塗りやすいため生え際や伸びてきた根元の白髪などを部分的に染めたい人に向いています。

ちなみに、市販の男性白髪染めでいちばん売れているのは弊社の「メンズビゲン ワンプッシュ」という、2剤が同時に出る早染めのクリームタイプです。残ったら次にまた使えるため、手軽さや経済性を重視する方に選ばれています。目的や重視するポイントに従って選ぶとよいと思います。

――キレイに染めるコツや注意点はありますか。

一般的に髪が細く軟らかい人は染まりやすいです。太くて硬い髪質の人は薬剤が浸透しにくいので、白髪が気になる箇所にはたっぷり塗るほか、放置時間を規定の範囲内で延ばすといいでしょう。

温度は20~30℃の場所で行うこと。寒いところでは染まりにくいので冬場などは注意してください。2度目以降は伸びてきた根元の白髪部分を先に塗り、前回までの染料が残っている毛先部分は後から塗るのがキレイに染めるコツです。

ヘアカラーの後とくに1週間くらいは髪が傷みやすく色が落ちやすいので、ヘアカラー専用のシャンプーやトリートメントを使うことをオススメします。

ヘアカラーはアルカリ剤で髪を膨らませ、酸化剤との反応でメラニン色素を脱色して色を入れます。施術直後は髪が膨らんだままなので傷みやすく色も流出しやすい。専用のシャンプーはそんな髪を弱酸性の健康な状態に整えると同時に染めた色を美しく長持ちさせることができます。

――ほかにケアでアドバイスはありますか。

基本的なケアになりますが、過度なブラッシングはせず、日傘などを利用して紫外線を避けること。水分を維持するためにもドライヤーは乾き切る直前でやめておく。洗い流さないタイプのトリートメントもキューティクルを保護する効果があるので、傷みが気になる箇所を中心に使うとよいでしょう。

デリケートな人は「化粧品」タイプを

――自宅でのヘアカラーは、皮膚アレルギー試験(パッチテスト)を毎回必ず行う必要があると聞いたことがあります。

体質や肌状態により酸化染料に反応してかぶれる場合があるからです。かゆみ・腫れ・赤み・ぶつぶつや気分の悪さなどがみられ、ごくまれにアナフィラキシー症状を起こす人も。

原因となる代表的な酸化染料はパラフェニレンジアミン(別称:PPD)と記載があるものです。硫酸トルエン2.5-ジアミン、パラアミノフェノールと呼ばれる成分もアレルギー発症が多いとされています。一度かぶれた人は二度とヘアカラーは使用しないでください。

ちなみに、まれにかぶれによる炎症が原因で起こる抜け毛はありますが、酸化染料が薄毛や抜け毛の原因になることはありません。

――ほか、ヘアカラーを控えたほうがよいケースはありますか。

とくに腎臓病や血液疾患の方は身体機能が低下している可能性があるため、避けていただきたいです。病中病後など免疫が落ちているときや、生理中、妊娠中など皮膚が敏感になっているときも控えたほうがいいでしょう。

――ヘアカラーを使えない人でも白髪染めできるアイテムはありますか。

最初にお話した「化粧品」に分類されるアイテムですね。例えばヘアマニキュア。酸性カラーとも呼ばれており、酸性染料(タール色素)で髪の表面とやや内側を染めるもの。ヘアカラーのように脱色しないので負担をかけずにすみます。色持ちは3週間~1カ月程度で、シャンプーのたびに徐々に色が落ちます。

肌や頭皮に色がつくと落ちにくいという難点もありますが、付属の保護クリームやクレンジング剤(商品によっては付属なし)で防いだり落としたりできます。

ヘアマニキュア後にヘアカラーを予定している人は、思いどおりの色味に仕上げるためにも、3週間~1カ月ほどあけてヘアマニキュアの染料が落ちてからヘアカラーをすることをオススメします。

――同じく化粧品に分類されるカラートリートメント(リンス)と一時着色料は、どんな特徴がありますか。

カラートリートメント(リンス)は髪の表面とやや内側を染めるもので、シャンプー後に使うだけなのでとても手軽です。ただ、一度ではしっかり染まらず、徐々に染めるアイテムです。

弊社の商品でいうと、初めての人は5回ほど連続して使うと白髪が目立たなくなります。その後は週に2~3回の使用で色を維持できます。ヘアカラーの合間に使う人も多いですね。

一時着色料は、顔料を髪の表面に付着させるものです。一時的に隠したい場合に便利で、マスカラ、スプレー、クシ型マーカー、ファンデーションなど複数のタイプがあります。外出前にサッと塗布できてシャンプーで落ちます。ただし、汗や雨などで髪が濡れると色落ちすることがあるので注意が必要です。

市販品でも役立つことがわかった

筆者は自粛を機にヘアマニキュアを使ってみたが、とくに髪や頭皮にダメージなく艶よく染めることができて気分が上がったものの、生え際に塗りムラを発見し、技術不足を実感。

不器用な筆者は美容室メインで白髪対策したほうがよさそうだと思った。しかし「再び厳しい自粛要請が出てもこれでしのげるし、平時で忙しく美容室に行けないときにも役立ちそう」と、市販品への信頼感が生まれた。

ちなみにホーユーの調査によれば、35~39歳の7割、40~44歳の8割に白髪があるそうだ。コロナの収束が読めない中、白髪に悩む方々にとって、この記事が対応策の判断材料になれば幸いだ。