日本人は新型コロナウイルスに対して免疫を持っている可能性 低い死亡率の原因?
- 新型コロナウイルスに感染した日本人の免疫反応は、既に同種のウイルスに感染済みのパターンを示した
- 日本人に免疫学習をさせたのは風邪コロナウイルスだった可能性がある
- 感染症の発生源から遠く離れた地域の生物は、感染症に耐性がない
世界各地で感染を広げている新型コロナウイルスですが、国によって感染者の増加率や死亡率に大きな差があることがわかってきました。
これらの差は国による検疫の違いの他に、ウイルスそのものが変異して引き起こされた可能性が以前の研究で示唆されています。
しかし今回、東京大学などの研究者たちによって日本人の免疫反応が詳しく調べられた結果、日本人には新型コロナウイルスに対する免疫が一部存在していることが示唆されました。
これらの免疫力は、2003年のSARS発生後もコロナウイルス(弱毒化したもの)が断続的に東アジアで発生しており、東アジア人の間に風土病として流行することで獲得されていたとのこと。
もし今回の研究結果が事実ならば、風土病となったコロナウイルスが、日本人に新型コロナウイルスと戦うための免疫学習の機会をあらかじめ与えててくれたことになり、日本における低い死亡者の説明になります。
では風邪コロナウイルスは、どのようにして日本人に免疫を与えていたのでしょうかか?
即応抗体(IgM)と専門抗体(IgG)
ウイルスに感染すると、人間の体はウイルスを排除するための抗体が生産されます。
私達が細菌やウイルスに感染したときに最初に生産される抗体が「IgM抗体」で、早期対応のための幅広いウイルス認識力を持っています。
また、IgM抗体によってある程度ウイルスの認識が進むと、対象となるウイルスの排除に特化した「IgG抗体」が作られます。
IgG抗体は感染を排除した後も残り続けるため、再度ウイルスが侵入したときに素早くIgG抗体が増殖でき、2回目の感染を防止します。
そのため、上の図のように、IgM抗体とIgG抗体のどちらが多いかを調べることで、患者が似たようなウイルスに感染した経験があるかどうかの調査が可能になります。
もし日本人が新型コロナウイルスに対して免疫力を持っていた場合、IgM抗体とIgG抗体の増加パターンは上の図の右側のように、IgG抗体の増加のほうが先に高くなるはずです。
では、実際の調査結果をみてみましょう。
日本人は新型コロナウイルスに対して免疫がある?
上の図は、東京大学をはじめとする研究者が、新型コロナウイルスに感染した日本人のIgM抗体とIgG抗体の増加パターンを示したものになります。
図が示す通り、日本人の感染者の多くが即応型のIgM抗体より先に、学習によって生まれるIgG抗体を多く生産していました。
このことは、日本人の多くが新型コロナウイルスに対する免疫学習を、既に行っていたことを意味します。
また今回の研究では、IgM抗体の生産が緩やかな場合には、重症化しにくいことが明らかになりました。
重症化はウイルスによる直接的な細胞の破壊ではなく、免疫の過剰反応が原因として知られています。
感染の初期において、広範な影響力を持つIgM抗体よりも、専門化されたIgG抗体が多く生産されることで、免疫も過剰応答を避けることができると考えられます。
研究者は、免疫を持たせる原因となった存在として、東アジア沿岸部に存在する未知のコロナウイルス(SARS-X)の存在を示唆しました。
また、2003年にSARSウイルスが発生した以降も、東アジア地域では断続的にコロナウイルスの発生が続いていた可能性も言及しています。
そしてこれらの未確認のコロナウイルスが、東アジア人の多くに「先行して風邪として感染」した結果、新型コロナウイルスに対する免疫力が獲得されたと結論づけているのです。
未知の風邪コロナがワクチンになっていた可能性
また、東大の研究以外にも、風邪コロナウイルスによって新型コロナウイルスに対する免疫付与が行われたとする研究が存在します。
中国の武漢大学によって行われた研究では、新型コロナウイルスに感染した経歴のない人間の34%に、新型コロナウイルスを認識する抗体の生産能力があることがわかりました。
この抗体は、新型コロナウイルスが発生するより前の2015年から2018年に得られた血液サンプルにも存在しており、この抗体が新型コロナウイルス以外のウイルス(おそらく風邪コロナウイルス)によってもたらされた可能性を示唆しています。
このころから中国の研究者は、既存の風邪コロナウイルスによって新型コロナウイルスに対する免疫力が人間に付加されたと主張していました。
日本と中国の結論は多くの点で一致しており「断続的に発生する弱毒化したSARS(日本の説)」または「古くからの風邪コロナウイルス(中国の説)」といった他のコロナウイルスからの感染が、新型コロナウイルスに対する、一種のワクチンとなったとしています。
この事実は、風土病に対する一般的な認識と同様です。
すなわち、感染症の発生地域の人間・動物・植物には、何らかの耐性があるのに対して、遠く離れた地域の生物には免疫がないとするものです。
かつてのペストのように、元々はアジアの病気であったものがヨーロッパやアメリカに広ると、被害がより大きくなる傾向があります。
国の検疫対応、変異したウイルスの型、そして今回明らかになった他のコロナウイルスによる事前の免疫学習。
新型コロナウイルスの流行の原因は様々であり、現状ではどれが決定的な原因かはわかりません。しかしウイルスの情報が増えれば増えるほど、解決への道も開けていくでしょう。
研究内容は東京大学 先端科学技術研究センター の川村猛氏らによってまとめられ、5月15日にZOOMウェビナーで先行発表された後に、世界五大医学雑誌の一つである「The Lancet」に投稿済みです。
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