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予備費10兆円は布石!秋口解散の可能性

解散のチャンスは秋口か年明けか

さまざまな政権スキャンダルが連鎖する中での国会閉幕は、野党の追及をかわすための「得意の逃げ恥作戦」(立憲民主幹部)であることは明らか。危険水域に近づく内閣支持率のV字回復も見込めない中での秋口解散は、「自爆テロになりかねないリスクもはらむ」(自民長老)。ただ、安倍首相にとっては「政権の死に体化を避けるため、残された唯一の手段」(同)ともみえる。

「東京アラート」に象徴されるように、新型コロナウイルスの感染収束のメドはなお見通せない。与党内では「年内解散など論外で、事実上の任期満了選挙しかない」(首相経験者)との見方が支配的だった。政権ナンバー2の二階俊博幹事長も、「早期解散の必要性を感じていない。今はコロナ問題の解決に努力することが大事だ」とクギを刺した。

その一方で、首相サイドは「このままでは、任期を全うしても野垂れ死にになる」(周)との危機感を募らせる。安倍首相がコロナ前に描いていたとされる「求心力を維持したままの勇退で院政を敷く」とのもくろみは、もはや幻想となりつつあるからだ。

今後予想される政治日程からみて、安倍首相が伝家の宝刀を抜けるチャンスは、「秋口か年明けの二択」(細田派幹部)とされる。その後は、「1年遅れの東京五輪開催の可否も絡んで、事実上の任期満了選挙しか選択肢が残らない」(同)からだ。

そこで浮上してきたのが「9月末解散・10月25日投開票」という日程だ。コロナの緊急事態宣言下の4月下旬には、衆院静岡4区補選が実施されており、与党幹部も「国政選挙はいつでもできる」と強調する。となれば、「経済復興のための2021年度予算審議直前の年明けより、秋口解散のほうが政治空白の悪影響は少ない」(自民幹部)のは自明の理だ。

その布石ともなるのが、第2次補正予算に計上された10兆円という巨額の予備費だ。「コロナ対策に臨機応変に対応するため」(政府首脳)が建前だが、与党幹部は「これで当面は第3次補正の必要がなくなる」と解説する。

都知事選後に夏の内閣改造も

安倍首相が政権のレガシーにと意気込んだ全世代型社会保障制度改革は、コロナの影響で最終案取りまとめが年末にずれ込み、関連法案提出も2021年の通常国会以降に先送りされた。一時盛り上がった「9月入学」は断念を余儀なくされ、検察庁法改正案を含めた国家公務員定年延長法案も宙に浮いたままだ。

加えて、第3次補正も急ぐ必要がなくなれば、急いで臨時国会を召集する必要もなくなる。開けば野党の政権攻撃の舞台となるだけだ。「それを封じるには、臨時国会での冒頭解散しかない」(自民国対)というわけだ。

ただ、「秋口解散には環境整備が必要」(閣僚経験者)だ。そこで浮上しているのが都知事選後の夏の内閣改造・党役員人事による態勢立て直しだ。黒川問題の国会答弁で「閣僚失格」の烙印を押された森雅子法相を始め、「在庫一掃の閉店セール」とまで酷評された現内閣の問題閣僚を総入れ替えし、人心一新を図る。

さらに、ここにきて安倍首相との不仲説もささやかれる二階幹事長や菅義偉官房長官を含めた政権の3本柱の配置換えや、反安倍グループの先頭に立つ石破茂元幹事長の要職復帰などで挙党一致態勢を演出できれば、「内閣支持率も回復可能」(政府筋)というわけだ。

国会閉幕直後にも予想される河井克行前法相と夫人の案里参院議員の公職選挙法違反(買収)での逮捕・立件も、黒川問題で批判の的となった「官邸の人事介入による検察封じ込め」との国民的不信の払拭につながる可能性もある。

それを契機に河井夫妻が議員辞職すれば、「政治的には一件落着となり、首相批判も一過性で終わる」(閣僚経験者)ことも予想される。その場合には10月25日に予定される衆院広島3区補選も、秋口解散で吸収できることになる。

2019年来、安倍首相が今秋の解散・衆院選の追い風にしたいともくろんでいたアメリカ大統領選は、ここにきて盟友のトランプ大統領の再選が微妙になっている。大統領選投票日は11月3日で、その前の衆院選実施ならトランプ氏敗北による政治的影響も避けられる。

際立つ不支持率の急上昇

野党の足並みの乱れも、安倍首相には有利な材料となる。一時は合流説もあった立憲民主と国民民主は都知事選での共闘もできず、それぞれの政党支持率も低迷が続いている。

野党ながら与党との連携を続ける日本維新の会が支持率を大きく伸ばしていることが、主要野党のさらなる弱体化を表している。「現状の野党のままなら、いくら政権批判が強くても自民党が大敗するはずない」(自民選対)というわけだ。

しかし、各種世論調査でも支持率低下以上に不支持率の急上昇が際立つ。安倍政権の岩盤とされる保守層の支持が減少する一方、無党派層が拡大して5割に迫る。しかも、その無党派層での内閣支持率はおしなべて2割以下と極めて低い。

投票率が低ければ組織票が物を言うが、コロナショックの中で政治への関心は年齢を問わずに強まっている。有力選挙アナリストも「自らの生活に絡むだけに、投票率が上がる可能性がある」と指摘する。すでに、ネット上では「#さようなら安倍総理」「#次は選挙に行こう」とのハッシュタグがトレンド上位に並んでおり、「もし、投票率が上がれば、無党派層の反乱で自民大敗は必至」(選挙専門家)との見方も広がる。

政権の命綱だったアベノミクスは完全に消滅し、頼みの綱のインバウンドなど望むべくもない。「希望の灯」だったはずの東京五輪もここにきて中止論が浮上しており、開催できたとしても規模を縮小し、負担ばかりがのしかかる可能性が大きい。「客観的にみれば秋口解散でも悪材料のほうが多い」(自民長老)のも事実だ。

コロナ下での選挙となれば、「選挙活動の制限で新人候補は不利」(選挙専門家)とされる。ただ、いわゆる安倍チルドレンと呼ばれる3期生以下の自民若手議員は選挙基盤が脆弱で、安倍人気で勝ち上がってきた議員が多く、逆風にさらされれば「枕を並べて討ち死にする」(自民選対)とみられている。

コロナ国会で自民若手議員の執行部批判が目立ったのは、落選への恐怖からだ。「安倍政権との距離をとることで、巻き添えを避けたい思惑」(自民長老)とみられる。このため、若手の間には秋口解散への反対論が多い。「『安倍と共に去りぬ』では洒落にもならない」(当選3回議員)というわけだ。

一変しかねない「ポスト安倍」の構図

もちろん、選挙で自民惨敗となれば、選挙は安泰な重鎮たちの立場も危うくなる。ポスト安倍の構図も一変しかねない。二階氏や菅氏が秋口解散に抵抗することも想定される。安倍首相が党内の反発を振り切ってまで伝家の宝刀を抜けるかどうかは「その時点での求心力次第」(首相経験者)となる。現状では「解散を模索して墓穴を掘った海部俊樹元首相の二の舞」(同)ともなりかねない。

ただ、「首相があえて死に場所を求めて解散する場合はとめようがない」(自民幹部)との見方も多い。自民党の議席が大幅に減っても、過半数割れさえしなければ、自公政権自体は安泰だ。安倍首相が議席減の責任をとって退陣表明すれば、後継は両院議員総会での投票となる公算が大きい。そうなれば、安倍首相が後継者ともくろむ岸田氏への禅譲も可能で、石破政権誕生という「首相がもっとも恐れる事態」(自民幹部)は回避できる。

併せて、退陣後に最大派閥(現・細田派)の領袖となれば、2021年9月の本格総裁選でのキングメーカーにもなれる。ただ、「それこそがとらぬ狸の皮算用。『あとは野となれ山となれ』の史上最低の無責任宰相の烙印が押されるだけ」(自民長老)との声も多い。

国会閉幕後は事実上の政治休戦となるが、今年の夏は例年以上の猛暑が予想されている。勝負師を自認してきた安倍首相の最後の大博打ともなる秋口解散説が「真夏の夜の夢」に終わるかどうか。「すべてはコロナ次第」(自民幹部)というのが実情だ。