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「オンライン営業」成果を出す人出せない人の差

新型コロナウィルス感染拡大を受けて、企業の営業活動のあり方にも大きな変化が生じている。「苦手な上司と直接顔を合わせる機会が減った」ことで、コンディションがよくなったといった意外なメリット(?)も聞かれるが、やはり営業成果を出すのが非常に難しくなっているという声が多いのが実情だ。

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顧客を対面で訪問するのではなく、オンラインツールを使った商談への切り替えが進み、なかなか成果につなげられないと嘆く声も多い。収束までには半年~1年以上という見方もある以上、ある程度長期戦を覚悟し、今の環境で業績を上げる方法を確立しておくべきだろう。

われわれエッグフォワードにも、このような構造の変化を受け、これを機に企業の営業組織をどう変えるべきかというコンサルティングやオンライン型営業強化のトレーニングのご相談が急増している。今回はその事例も踏まえて、Withコロナ・Afterコロナの時代に備えた「オンライン営業の心得」をご紹介したい。

現場の営業たちから聞こえてくる悩み

まずは、オンライン営業の何につまずいているのか、現場で聞かれる具体的な悩みを紹介していこう。

1つは相手との距離を感じ、深い対話がしにくいという悩み。画面越しでは、潜在的な課題を引き出したり、関係性を構築したりすることの難易度は高い。「アポを取るまでは電話でも構わないが、やはりクロージング(商談の最終段階)は直接会わなければ難しい」という声も多い。

意外に多い悩みは、「時間の使い方」。訪問型の営業は、一般には1日の業務時間のうち30~50%を移動に費やしているといわれているが、移動がなくなりアポ数が大きく増え、生産性を著しく上げている人もいれば、そこまでのアポが確保できず、意外と暇をしている人もいる。

このバラつきが大きくなっているのだ。加えて、オンライン化に伴って、メンタル不調を訴える人が増えてきた。休憩も取らず延々と商談を続けて心身に不調を来すのだ。とくに在宅勤務の場合は、周りに同僚がおらず1人でパソコンに向き合い続けることになり、周囲のフォローも得にくい。

そして、1番の問題は、これらの悩みに対して上司がうまくマネジメントできないこと。メンバーの顔も見えず、変化に気づきにくいのはもちろんだが、そもそも、営業プレーヤーとしてオンライン営業を経験したことのない上司が圧倒的に多い。これまでの訪問型の営業スタイルを持ち出してアドバイスをしても部下の悩みにフィットしないのだ。

メンバーからすれば、従来型のアドバイスしかできない上司に、「上司のあなたがまずオンライン営業をやってみてよ」と言いたいのももっともだろう。

訪問型の商談とオンラインの商談は、似て非なるもの

こうした悩みはなぜ起きてしまうのか。弊社が企業の営業組織をコンサルティングしている経験から言えば、「オンライン営業ツールを用意しただけ」になっているケースが多い。営業責任者や経営幹部は、コミュニケーション手段が変わるだけだと軽く考えていると危険だ。

なぜなら、訪問型の営業とオンライン営業は、まったく違うものだから。とくに「営業プロセス」「マネジメント」「スキル」の3つをオンライン営業に合わせて変えていく必要がある。

順を追って説明していこう。まずは「営業プロセス」。訪問型の場合は、「ごあいさつを兼ねてお伺いします」などときっかけをつくって客先へ出向き、その場でニーズをヒアリングしたり、商談を進めたりすることができた。いわゆる、自分たちから仕掛ける「PUSH型」のアプローチだ。

しかし、オンラインが前提になると、相手に明確なニーズがないとビデオでの商談にはならない。対面ではないからこそ、顧客にとっては“お断り”しやすい環境だ。となると、問い合わせを起点にした営業、いわゆる「PULL型」にシフトすることの重要性が増す。それに合わせたWEBマーケティングのあり方などの設計が極めて重要になる。この違いを理解しないまま漫然とアポ取りの電話をかけさせても、成果にはつながらない。

営業に求められる「スキル」も変わる。多くの人は営業職に必要なスキルとして「コミュニケーション力」を挙げるだろうが、それはどちらかといえば「相手の懐に入るのがうまい」「誰からも好かれる」といった人間力に近いイメージだった。

しかし、オンラインの営業においては、同じコミュニケーション力でも「目的・論点を明確にして商談を進める力」、いわゆるファシリテーションスキルや、資料を作成するドキュメンテーションスキルの重要度が増してくる。

画面越しの相手になんとなくの感覚で伝えたり、顔を見てパンフレットを指さしながら説明することもできない。対面で商談するときと同じ感覚で営業をしてもうまくいかないのだ。前提として属人化されていた営業プロセスの棚卸も必要だろう。

あるクライアント(大手IT)の事例をご紹介しよう。もともと外に出る営業部隊のフィールドセールスと、社内でのインサイドセールスに切り分けており、それぞれまったく別の人材要件で採用を行うほど、2つは異なっていた。

社内では、従来フィールドセールスのほうが主流だったが、オンライン営業が当たり前になったことで、その位置づけは逆転。営業のあり方を、かつてはフィールドセールスが耳も貸さなかったインサイドセールスのスタイルをベースに進化させ、この状況下でも150%以上大幅に業績が向上している。

「マネジメント」のやり方もおのずと変わる。従来の営業であれば、売り上げ目標を達成するために、訪問・架電の件数や商談数などをKPIにした行動量のマネジメントに注力されることが一般的だった。

しかし、オンライン営業は1件のアポや商談を確実に制約へとつなげていくための質(商談の内容)が重要になる。したがって、「足で稼げ」という量のマネジメントから、「確実に成約につなげる」ための質のマネジメントに移行すべき時が来ている。

また、上司からすると、日常的に声をかけたり、変化に気づくことが難しい。メンバーの状況がそんな中で上司がマネジメントしやすいような支援を組織的に行うことも不可欠だ。

従来型営業の弱点を解消するチャンス

このように、オンライン営業を主軸にして成果を出すためには、単にツールを整えるだけでなく、ある意味で別の組織に生まれ変わらせるくらいの変革が必要だ。だからこそ、最後に強調してお伝えしたいのは、オンライン営業のための組織変革は、営業組織の本質的な進化にもつながるということだ。

例えば、訪問型の営業はどうしても業務プロセスが見えづらく属人化しやすい。これが業務プロセスの可視化や、営業のドキュメンテーションスキルが向上することなどで解消されていく。

また、そもそも業績モニタリングやKPIの設定がうまくできておらず、営業メンバーをマネジメントしているつもりで実質的に野放しになっている営業部もある。仕組みを整備することで、安定的に業績を向上させられるとともに、営業個人にとっても評価がわかりやすくモチベーションアップにもつながるだろう。

このように捉えてみると、今は新型コロナウイルスの影響で変化を余儀なくされているのは事実だが、むしろオンライン営業への転換は従来型営業が見て見ぬふりをしてきた弱点・課題を解消するチャンスともいえる。

自粛が解かれて対面営業に戻ったとしても、しばらくは顧客の財布のひもは固く、シビアな目で見られるだろう。そのときに人間力だけの営業は通用しない。今のうちに組織・個人がAfterコロナの世界に備えて力をつけておく必要がある。

また、中にはこの働き方にうまく適応している人たちがいるのも事実だ。生産性が上がり、従来以上の成果を出している人もいるし、家族と過ごす時間が増えることをうれしく思っている人も多い。企業にとっては耳の痛い話だが、「無駄なミーティングがなくなった」「雑務が減って生産性が上がった」という意見すら出てくる。

つまり、全員がオンライン営業に苦しんでいるわけではなく、この機会をうまく活用して成果を上げる人や組織もいるということ。感度の高い経営陣や営業責任者は先んじてこの課題の解決に取り組んでおり、未来を見据えたご相談をいただくが、逆の会社では、ツールを準備するだけで現場のせいにしているだけだ。

今回は弊社に寄せられる相談から、営業組織についての課題を取り上げたが、話を伺うほどに、目先の営業というよりは組織全体の課題が浮かび出るケースが多い。皆さんの所属する組織や上司はいかがだろうか。今後の営業組織、もっといえば、組織全体を進化させていくためのきっかけにしていただければ幸いだ。