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在宅ワークおすすめ家具

自宅のいすは硬すぎる

「3月に入ってから、申し込みが殺到している」。オフィス家具の通販やレンタルを手がける47(よんなな)ホールディングスの阿久根聡代表取締役は手応えを語る。「もともとはオフィス向けを中心に事業を展開していたが、在宅勤務の導入に伴い『自宅を仕事場仕様にデザインするためオフィス家具を導入したい』という引き合いが強くなっている」。在宅向けのオフィス家具の購入費用を補助している企業もあるという。

テーブルの高さが合わず無理な姿勢を強いられる、いすの座面が硬くて長時間座っていると疲れる……。在宅勤務が続く中、改めて「自宅は仕事をする場ではない」と痛感した人も多いだろう。自宅での作業を少しでも楽にしたい、そんな思いからか、自宅で使うためにオフィス家具を購入する動きが広がっている。

高さを調節できるデスク、角度を自在に変えられる電気スタンド、電源コードやLANケーブルなどを1カ所にまとめられるコンセントユニットなど、かゆいところに手が届くのがオフィス家具。中でも引き合いが強いのは、オフィスチェアだ。座面の高さはもちろん、背もたれやひじかけ、ヘッドレストなど体に合わせて細かい調節が可能で、人間工学に基づいた商品もある。「(オフィスチェアは)よく考えられて設計されている」(阿久根氏)。

オフィス家具メーカー大手のオカムラは、自社ブランドのオフィスチェア「ノーム」が好調だ。長時間座っても疲れないクッション性の座面や、角度だけでなく反発力まで調整可能な背もたれが特徴。価格は2万円台からだが、今月3月のECサイトでの売り上げは前年同月比で約1.8倍に伸びた。通常のオフィスチェアは10万円程度と値が張るが、在宅向けにはノームのような2~3万円程度の商品がよく売れているという。

「総務部から『従業員向けに支給したい』という問い合わせが増えている。オフィスチェアのほか、感染予防のため室内に仕切りを作るための簡易なパーテーションの引き合いもある」(同社)。ダイニングテーブルや寝室など、同じ「在宅」でも場所ごとに異なるオフィス家具を提案するほか、ECサイトでも在宅向けのキャンペーンを打ち出している。

同じくオフィス家具メーカーの内田洋行が都内に構えているショールームにはこの数年、個人の来場客が増えている。「テレワークの普及や働き方の多様化を受けて、在宅向けに高級オフィスチェアを購入する客が非常に多くなっている。長時間同じ姿勢で仕事をしていると、安価ないすでは疲労がたまやりやすいためだ」。同社の高級オフィスチェアは前期比で1.6倍の売り上げを記録した。

 

オフィスチェアだけでなく、デスクの需要も高まっている。同社のデスク「OPERNA(オペルナ)」は、天板の高さを65センチから最大125センチまで自在に昇降させられ、気分転換に立って仕事をすることも可能だ。テレビ会議の増加を受けてディスプレイの高さや角度を自在に変えられるモニターアームや、書類や道具をまとめるだけでなくパーテーションとしての機能も担えるキャリーボックスなどの需要も喚起されるとにらむ。

オフィス家具メーカー各社はもともと、働き方改革の流れを受けたテレワーク需要に照準を定めていた。企業側もサテライトオフィスやシェアオフィスの導入に積極的で、オフィススペースの増加に比例して、オフィス家具の需要も年々増加している。総務省によれば、テレワークを導入している企業の割合は2018年時点で19.1%。2012年の11.5%に比べてじわじわと増加している。

そこに新型コロナウイルスという新たな要素が出てきた。外出自粛に伴って急激に普及した在宅勤務のみならず、感染リスクを抑えるために、執務フロアを分散させる動きも広がっている。

メーカー各社は様子見

他方で、「在宅」需要がメーカー各社の業績を押し上げるまでには時間がかかりそうだ。文具やオフィス家具メーカーのコクヨは、「緊急事態宣言の間は事業所が閉鎖され、受注しても納品が中断されてしまう」と話す。オフィス家具は受注生産が主で、納品までに1週間以上かかることも珍しくない。工場の稼働状況によっては供給が追いつかないおそれがある。

また、代理店を通じた法人向けの営業で成長を続けてきたオフィス家具メーカーにとって、B to Cビジネスは経験が浅い。各社はECサイトこそ開設しているものの、在宅向けの商品を新たに開発するというよりは、既存のオフィス家具を在宅向けに転用しているのが現状だ。各社はまだ様子見モードといったところだろう。

新型コロナウイルスの終息後も在宅需要が根付けば、オフィス家具メーカーにとっては大きな商機になりそうだ。その時は「オフィス家具」という場所に縛られた名称も変わっていくのかもしれない。