一万円札の原料「ミツマタ」の生産地が活気づく

2024年度の新札発行を控え、1万円札の原料となる樹木「ミツマタ」の生産地に活気が出てきた。国立印刷局に納入される国産のミツマタは1割未満で、廉価な外国産に圧倒されているが、徳島県は2倍以上の出荷を目指すなど各地で増産の動きも見られる。紙幣は国の象徴でもあり、国産原料の安定調達には行政の支援も欠かせない。

 

ミツマタは高さ1~2メートルの落葉低木で、剥いだ樹皮が原料になる。繊維が長く、強い耐久性を持つのが特徴だ。
 主産地は中国・四国地方。日本特産農産物協会によると、紙幣などに使う白皮のミツマタの生産量は18年が16トン。担い手の高齢化などを背景に、10年前に比べ約7割減少した。昨年4月の新札発行の発表を受け、産地では「品質に自信のある国産を送り出したい」(岡山県の農家)との声が上がっている。

 

徳島県で栽培・加工を手掛けるネパリ(三好市)は、自社栽培を中心にミツマタを調達し、紙幣用に年3~4トンを出荷する。今年は1万本の原木を植えたが、周辺の耕作放棄地を利用し、来年以降は5万本以上に増やす計画だ。今村明人社長は「近い将来10トンの出荷を実現する」と意気込みを語る。
 岡山県美作市では16、17年の出荷はなかったが、後継者を育て、19年に約400キロまで回復。今年は900キロが目標だ。島根県でも直近2年間の出荷が途絶えたが、「新札発行に刺激され、津和野町では今年の加工再開に向け準備を始めた」(JAしまね)。
 19年度に国立印刷局に納入されたミツマタ約102トンのうち、国産は6トン弱で、ネパールなどの外国産が全体の9割を超えた。価格は30キロ当たり約4万円の外国産に対し、国産は2.5倍の約10万円と高いが、「人件費や経費は賄えず、採算が合わない」(JA晴れの国岡山)という。
 印刷局は、原料の安定調達の観点から、今後も国産品を一定量購入する方針だ。ミツマタ生産者の確保を重要課題に掲げ、作業負担を軽減する機械の作製・提供など「産地や農協と連携し支援に努めたい」と話す。一方、国が推進するキャッシュレス決済は、ミツマタ産地にとっては不安要素の一つ。国と産地の意思疎通が求められている。