· 

首都【東京】崩壊序章

人口密度が極めて高い

人口比からすれば当然の結果かもしれない。この先、東京都の感染者数はどこまで増えていくのか。ニューヨークのように一気に爆発的増加とならないことを願うばかりだが、感染者急増の事態を前に改めて東京一極集中の怖さを実感している人も多いのではないだろうか。

東京都の人口は3月1日現在で1395万人。面積は2194㎢。人口密度は1㎢あたり6359人。文京区、台東区、荒川区、豊島区、中野区は2万人以上という超過密ぶりだ。例えば、4月10日に初めての感染者が確認された鳥取県は人口約55万4000人。面積は3507㎢。人口密度は約158人である。鳥取県よりも狭い東京都に、鳥取県の25倍もの人々が暮らしているのが現状だ。

東京都の一極集中ぶりがいかに進んでいるか、データで検証してみよう。総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、2019年1年間に東京都内への転入者は46万6849人、転出者は38万3867人で8万2982人の転入超過。全国トップである。前年が7万9844人の転入超過だったから、一極集中の加速が止まらない。

昼間人口はさらに膨らんで1592万人にもなる(2015年国勢調査=常住人口は1352万人)。昼夜間人口比率(常住人口100人当たりの昼間人口の割合)は117.8。区部は129.8で、常住人口5万8406人の千代田区に至っては昼間人口が85万人余りにもなるため、昼夜間比率は1460というとんでもない数値になっている。

他県から都内に通勤、通学している人は約290万人。都内に住む通勤、通学者(679万人)を合わせると約970万人が毎日何らかの形で移動している。“通勤・通学大移動”が毎日繰り広げられているのだ。

 

経済活動の集中ぶりも際立っている。近隣の埼玉、神奈川、千葉3県を加えた東京圏でみると、人口は約3677万人で日本全体の約3割が密集している。

内閣官房国土強靭化推進室が2019年9月にまとめた資料(「東京一極集中リスクとその対応」について)によると、就業者数1635万人は全国シェア27.7%(2015年)。資本金10億円超の大企業数は3056社で同62.0%(2017年)。域内総生産(GRP)名目は180兆円余りで同33%(2015年)、年間出荷量4億8100万トンで同19.0%(2015年)となっている。

過密都市東京、通勤地獄と物価は高止まり

世界有数の超過密都市における日常はどうなっているか。まずは通勤ラッシュ。国土交通省の都市鉄道の混雑率調査(2018年度)によると、三大都市圏主要区間の平均混雑率は東京圏163%、大阪圏126%、名古屋圏132%だ。

東京圏で目標混雑率180%を超えているのは11路線。東京地下鉄東西線199%、JR東日本横須賀線197%、同総武緩行線196%、同東海道線191%などが上位を占めている。東西線・木場駅―門前仲町駅は、ピーク時間帯(7時50分~8時50分)に10両編成の電車が27本走っている。輸送力3万8000人余りに対し輸送人員は7万6600人を超し、混雑率199%の日本一を記録している。

物価水準の高さも日本一だ。小売物価統計調査(構造編)2018年によると、都道府県別の物価水準の総合指数が最も高いのは東京都で104.4。最も低い宮崎県は96.0と比較して8.4ポイントの差がある。水準的には東京都が宮崎県よりも8.8%高いということになる【(高い指数-低い指数)÷低い指数×100】。

物価が最も高いのは住居費。東京都の指数はなんと133.0とけた違いに高い。最も低い愛媛県は82.7だから、その差はなんと約50ポイント。物価水準でみると東京は愛媛よりも60%も高いことになる。

では可処分所得はどうか。総務省の家計調査年報(県庁所在地別データ=2018年)によると、1世帯当たり1カ月間の収入と支出(勤労者世帯)の可処分所得全国平均は45万5125円。東京都区部は51万9217円で全国5位。1位の金沢市は53万5451円で、2位は福井市、3位は富山市だ。物価がトップなのに可処分所得は5位どまりなのである。

また、毎年話題となる待機児童問題。東京都の待機児童数は2019年4月1日現在3690人で全国トップ。待機児童率は1.19で全国6番目の高さだ。子育て環境も厳しい。

過密都市・東京の生活の厳しさを裏付けるデータを紹介したが、深刻なのは災害発生時にもたらされる大変な被害だ。

いまのコロナ感染拡大ももちろん大災禍。感染拡大、長期化による被害想定さえできない状況だ。4月15日に厚労省クラスター対策班の推計が明らかになったが、「まったく対策を取らなかった場合」という前提条件付きのため、正確な推計値の判断は難しい。

先に紹介した「東京一極集中リスクとその対応について」の資料には、東京一極集中における災害時のリスクとして、中央防災会議がまとめた「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」の内容を、①人口や資産の集中によるリスク、②首都中枢機能への影響としてのリスク、③地域・地盤の脆弱性によるリスクの3つに分類して検証している。

災害時のリスク

主だった被害想定(首都圏全体)をみてみよう。

●膨大な建物被害と人的被害:全壊及び焼失建物棟数(最大)約61万棟、死者数最大約1万6000人~約2万3000人
●帰宅困難者による混乱:帰宅困難者数約640万人~約800万人
●避難所の不足:2週間後の避難者数約720万人(このうち避難所外が約430万人)
●電気、ガス等の利用停止:1週間後の電気供給能力約2800kw(ピーク需要比52%)、1週間後のガス供給停止戸数約125万7000戸
●道路・鉄道の被災による交通混乱:幹線道路の深刻な交通渋滞や長期間の鉄道不通状態継続のおそれ
●企業の本社機能の停滞による全国的な経済活動の低下
●サプライチェーン寸断による全国への生活から経済までの広範囲にわたる影響
●羽田・成田空港の同時被災による海外および国内への航空輸送への影響
●金融中枢機能の混乱:東京証券取引所の一時的な取引停止など
●国際的な信用失墜による海外への企業移転:日本市場からの撤退や海外からの資金調達コストの上昇など
●海抜0m地帯など低地における高潮、津波、洪水による長時間の浸水の影響
(※首都圏での災害による被害額の推計)  
●中央防災会議試算:首都直下地震の被害額推計95.3兆円
●土木学会試算:巨大災害における長期的な経済低迷効果を推計した経済被害推計
・首都直下地震(20年)731兆円
・東京湾巨大高潮(14カ月)46兆円
・東京荒川巨大洪水(14カ月)26兆円

首都直下地震は、政府の地震調査委員会が今後30年以内に70%の確率で起きると予測しているマグニチュード7規模の大地震で、首都圏に甚大な被害をもたらすものとみられる。

中央防災会議の被害想定には、建物を耐震化して火災対策を徹底すれば人的被害を10分の1に減らせる可能性があるとの指摘もあるが、一極集中のハイリスクそのものは変わりない。

4月16日、政府は緊急事態宣言の対象地域を全都道府県に拡大を決めた。こんなときに考えたくもないことだが、今回のような感染症拡大時に大地震のような災害が発生したらどうなってしまうのか。

最近、首都圏を含め各地で地震が発生しているだけに、災害リスクを頭の隅に入れておいたほうがいい。収束が見えないコロナショックは、超過密都市・東京のハイリスクを顕在化させた。今は感染拡大を食い止めることが最優先だが、ポストコロナ時代に向けて、一極集中の是正は待ったなしの政策課題である。