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仕事についての考え方を変えよう

猛威を振るう新型コロナウイルス。戦後、1973年のオイルショック、1990年のバブル崩壊、2008年のリーマンショックなどいろいろな危機がありましたが、働く人への影響という点では、現段階ですでに過去の危機を超えているのではないでしょうか。

最近、仕事仲間からよく耳にするのが、「自分の仕事・働き方・生き方を改めて見つめ直してみたい」という声です。働く人がいま改めて考えてみたい4つの論点を紹介しましょう。

仕事における「不要不急」とは

第1の論点は、仕事における「不要不急」です。

今回、外出自粛において「不要不急」という言葉が使われ、会社でも「不要不急の会議は止めよう」「その出張は不要不急で認められない」などと言われます。

会社の業務は、必要かどうか、急ぎかどうかで次の3つに分類できます

①必要火急
②必要不急
③不要(「不要不急」と「不要火急」)

必要かどうかは、その業務を延期して実施するか(必要)中止するか(不要)、急ぎかどうかは、いますぐやらなければならないか(火急)、延期しても差し支えないか(不急)、でわかります。

皆さんはこの割合がどうなっていますか。ちなみに経営コンサルタントの私の場合、4月は①:②:③=1:8:1です。4月に予定されていた研修など多くの業務が延期になり、現在ほとんど仕事をしていません。

今回の事態が発生する前まで、たいてい人は「俺の仕事はすべて必要かつ火急だ。不要不急の仕事なんてしていない」と自惚れていたのではないでしょうか。かくいう私もそうでした。しかし、こうして必要火急は1割だという現実に直面すると、本当に必要な仕事、火急な仕事とは何なのか考えさせられます。

この機会に自分がやっている仕事を棚卸ししたいものです。

 

<第1の論点>
□会社・顧客・社会などにとって必要な仕事、火急な仕事とは何なのか
□自分は必要・火急の仕事をどれだけしているか、どうすれば増やせるのか
□自分は不要不急の仕事をしていないか、どうすれば減らせるか

第2に、(1点目と関連して)自分自身の価値について考えたいところです。どんな会社にも、事業を続ける上で必要火急な業務があります。しかし、それをあなたが担当するかどうかは別問題です。

ホテルの営業にはフロント・接客・清掃などの業務があり、担当する従業員が必要です。たとえば、あるホテルにフロント係が2人いて、経営者は新型コロナウイルスの影響で宿泊客が減少したことを受け、1人でも営業できると判断しました。1人の首を切り、1名を残します。

経営者は首にする従業員と残す従業員をどう決めるでしょうか。経営者のお気に入りかどうかといった事情を抜きにすると、基本はその従業員が提供する仕事の価値と賃金水準でしょう。残すのは、「客の細かいニーズに対応できる」「クレーム処理がうまい」といった価値のある従業員か、賃金が低い従業員のどちらかです。

つまり、働く人は、他の人よりも優れた価値を持つか、低賃金で働くか、どちらかの選択を迫られるのです。

好景気・人手不足のときには、価値がない人でも賃金が高い人でもさほど問題なく働くことができます。しかし、こういう事態になると、仕事の価値が問題になります。

<第2の論点>
□自分が仕事に従事できている理由は何か
□自分が提供している価値は何か
□価値向上に向けてどう学習・研さんするべきか

モチベーションについて見直す時期

第3の論点は、働くモチベーションです。

人間は感情の動物であり、モチベーションが高いときには信じられない力を発揮します。モチベーションが低いとどんな能力が高い人でも成果を実現できません。そして、モチベーションは「環境」「仕事」「評価」「報酬」などの条件によって決まります。

今回の危機を受けて企業はさまざまな対策を進めており、「評価」以外の「環境」「仕事」「報酬」にすでに大きな影響が出ています。

「環境」では、テレワーク・在宅勤務によって、メンバーが集まって常時コミュニケーションを取るという職場環境ではなくなりました。人間関係は希薄になっています。

「仕事」では、先ほどのとおり不要不急の仕事を選別するよう求められています。取引の維持、顧客からのクレーム対応といった後ろ向きの業務が増えています。

 

「報酬」は、賃下げが加速し、日本企業の強みだった賃金の安定性が脅かされようとしています。

こうした変化を受けて働く人は、モチベーションについて認識を新たにしています。

「在宅勤務をして、職場の仲間と一緒に働く楽しさを再認識することができた」「ベアは凍結、ボーナスは半減しそうだが、そんなに気にならない。生活さえできればお金は大切ではないことを知った」「仕事量が減ってムズムズしている。やっぱり仕事が好きなんだと実感した」

物事が順調なとき、私たちはさほどモチベーションを気にしません。今回、モチベーションの諸条件が大きく変わっていることを受け、改めてモチベーションについて見つめ直したいものです。

<第3の論点>
□自分が働くモチベーションは「環境」「仕事」「評価」「報酬」のどこにあるのか
□現在の会社・職場・働き方は自分のモチベーションを高められる状態か
□今後モチベーションを高めるためにどうすればよいのか

最後に第4の論点は、組織との距離感、従属関係です。

今回の危機を受けて、体力のない中小企業・零細企業が倒産したり、生き残りを懸けてリストラに取り組んだりするケースが出ています。一方、大企業は、業績悪化に見舞われているものの存続していますし、雇用も守られています。そしてリストラで、正社員は対象外で、非正規雇用が真っ先に狙い撃ちされています。

就活を控えた学生だけでなく、企業勤務者からも「やっぱり何だかんだで大企業だよね」「非正規で働くって絶対ありえない」といった声が聞かれます。より大きな組織の中で組織に守られて生きていきたいということで、組織との距離感が縮まり、従属傾向が強まっているわけです。

世界のトレンドと逆行する日本

しかし、これは世界のトレンドに逆行しています。アメリカでは1970年代、経済の70%を「フォーチュン500」の企業、つまりアメリカのトップ500社が占めていましたが、近年この割合は10%を切るまで減少しています。

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また、組織に属さないフリーランサーは5670万人と労働者の35%に達しています。大企業、正社員の地位はどんどん低下し、中小・零細企業、そこで働く労働者やフリーランサーが社会の主役になっているのです。

「寄らば大樹」という言葉のとおり、日本人は所属欲求・依存心が強いと言われます。一方、近年、兼業・副業の解禁など組織に従属しない生き方がもてはやされました。

今回の「揺り戻し」は一時的な現象でしょうか、トレンドが再転換したのでしょうか。こうした世の中の変化を踏まえつつ、私たちは組織との距離感や従属関係を考え直したいものです。

<第4の論点>
□組織に従属して働くべきか、従属せずに働くべきか
□従属して働く場合、仕事の価値やモチベーションをどこに求めるか
□従属せずに働く場合、どのような仕事で働くか、生活は成り立つのか

 

「明けない夜はない」。いつの日か人類は新型コロナウイルスの脅威に打ち勝つでしょう。ただ、元の生活を取り戻すだけでなく、この時期に仕事・働き方・生き方を見つめ直すことによって、将来「コロナ騒動があったときに人生を見つめ直したから、自分は大きく飛躍することができた」と笑顔で言えるようにしたいものです。