Apple Storeが世界No.1ブランドであるワケ
皆さんも、1度はApple Storeに足を運んだ経験があるのではないでしょうか。
Apple Storeは店舗の単位面積当たりの売り上げが、世界中の全ブランドの中でナンバー1です。ティファニーやプラダ、ロレックスといった高級ブランドを抑えて、2位のティファニーの倍以上の売り上げを誇ります。
そして、このApple Store にはデザインスクール的な工夫が100個も200個も埋め込まれています。
例えば、その1つが76度の魔法。
Apple Store では、店に展示しているノート型パソコンの開いている角度は76度と全世界共通で決まっています。その角度を測る専用のアプリがあり、お店のスタッフは開店前にスマートフォンのアプリで角度を測って、76度にそろえています。勤務が長い人は慣れていて、目測でほぼ76度にそろえられる人もいると言います。
なぜ76度なのか。それはユーザーに触らせるためです。
これはApple のデザイナーのジョナサン・アイブが言っている「人は触ったものには恐れを抱かない」という考えに基づいています。
76度という角度は垂直に近く、店舗内を歩く訪問客からは、ディスプレイが見づらい角度になっています。
そこで訪問客は自然と、自分にとって見やすい角度にするためにディスプレイを触って自分で調整することになります。
このようにして、訪問客がプロダクトと物理的に触れることで、訪問客の中で、プロダクトに対する心理的なハードルが一段下がります。その結果、購買につながる可能性が高まるという考えです。
実はApple はこの角度の微調整を重ねており、2015年ぐらいまではその角度は70度だったと言われています。最適な角度を今でも探り続けているのです。
私が学んだデザインスクールでは、人の心理まで勘案した経済学である行動経済学も学んだのですが、これは行動経済学で「ナッジ(nudge)」と呼ばれる考え方です。
ナッジとは、「ヒジで軽く突く」という意味で、科学的分析に基づいて人間の行動を変える戦略を意味します。
出来上がった製品を店に並べるとき、何となく置いてあるだけでは客は興味をそそられず、素通りしてしまいます。客が思わず立ち止まって手にするようなディスプレイはないかを考えることがとても重要なのです。
それだけではなく、例えばワイン売り場でフランスの曲をかけたらフランスワインを買うという実験からも、店のBGMも時に絶大な効果をもたらすのだとわかります。
マーガリンはなぜ爆発的に普及したのか?
また、ほかにも消費者の無意識に働きかけ成功した例としてマーガリンの例があります。
スーパーに立ち寄る度に、空っぽのバター売り場を見て、隣に置いてあるマーガリンに手を伸ばしたことのある人も多いと思いはず。このとき、人は無意識のうちに「マーガリンはバターの代替である」という前提を持っています。
しかし、マーガリンは19世紀初めに誕生したものの、約100年にわたり、バターの代替としては認知されませんでした。どんなに味をバターに近づけるように努力しても、売り上げは伸びませんでした。
そんなとき、臨床心理学者のルイス・チェスキンは、とあるマーガリンメーカーから相談を受け、どうすればマーガリンが売れるのかを検証することになりました。
彼が考えたのは、マーガリンの色を黄色くすること。今となってはマーガリンといえば黄色いのが当たり前ですが、それまではマーガリンの色は白く、バターとの見た目が違いました。
チェスキンはランチパーティーを開き、2つの実験を行います。1つは、あるグループにはバターの小さな塊を提供し、違うグループには色を黄色に変えたマーガリンの塊を提供して食べてもらう実験です。どちらのグループも「あのバターはおいしかった」と答え、味の評価にまったく差は出ませんでした。
もう1つの実験では、黄色のバターと、色を白くしたバターの食べ比べを行いました。すると、黄色のバターをおいしく感じると答えた人が多い結果になりました。2つの実験から言えるのは、人はバターやマーガリンの味そのものに反応しているのではなく、色に反応しているということです。
この実験以降、マーガリンの色は黄色くなり、マーガリンのアメリカにおける市場規模は数年後にバターを超えました。
一般的に、ビジネスパーソンは理性やロジックに訴えかけますが、消費者は理性で購入はしていません。本人は論理的に考えて選んでいるつもりでも、無意識レベルでさまざまな情報に影響されています。
そこで、無意識レベルに影響を与える、感性やハートに訴えかける届け方が重要になります。
「こう思う」から「もう知っている」へ
「I think(こう思います)」から「I know(もう知っています)」へ。
プロダクトを市場に投入する際に、理想的な状態を指してこのように言います。
プロダクトを実際に市場に出すまでは、通常であれば、どれだけ精緻に計画を立てても「こうなるだろう」「こうなるといいな」という推測の域を出ない状態が続きます。しかし、実際に市場投入前に、市場との対話を通した“実験モデル”を作成・実施することで、プロダクトやサービスが実際にマーケットからどのような評価を受けるのかを把握することができるというものです。
「実験モデル」というと難しく聞こえますが、プロダクトやサービスの中で「不確実性の高いこと」を洗い出し、それらをプロトタイプを使いながら、正式ローンチ前に実際の想定顧客にフィードバックをもらう方法のことを言います。
例えば、商品の訴求ポイントに迷いがあれば、キャッチコピーのパターンを洗い出したうえで、複数のポスターを作って反応をみることができます。製品パッケージに迷いがあるのでれば、複数パターンのパッケージを作ったうえで、それに対して想定顧客にフィードバックをもらいます。もちろん、この段階では、必ずしも完成品である必要はありません。
プロダクトなら3Dプリンターでプロトタイプをつくったり、1つだけ完成品に近いものをつくって、ユーザーに試してもらいます。アプリなら試作品の段階で試してもらい、サービスのような形にできないものなら、イメージ写真などを使ったプレゼンで代替できます。
市場に出してみて、問題点がわかったら修正する。それを何回か繰り返したのちに、晴れて製品化という話になれば、その製品がどれぐらい売れるのかの予測もつきます。
これからは「We think」に時間をかけるのではなく、どれだけ早く「We know」に達することができるかがプロジェクトの成否にかかっています。
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